論文 森林・林業基本法成立後の新政策の展開について



本論文は、「公庫月報」(農林漁業金融公庫発行)12月号に掲載のものである。
なお、本号は、森林・林業基本法にみる今後の林業の姿というテーマの特集号となっている。
したがって、主な執筆テーマと執筆者は次のようになっている。
「森林・林業の新時代」滑志田 隆
「21世紀の林業の担い手作りに向けて」木下 紀喜
「これからの森林整備に向けて」岡 和夫
「森林・林業を支える女性たち」栗原 慶子
「消費者ニーズを捉えた産地と消費地の連携」武田 八郎
以上の特集のほかに、芳村真理さんの随想、「日本における森林認証制度の広がり」白石則彦氏などがあります。
問い合わせは、農林漁業金融公庫総務部広報担当へ、TEL:03-3270-2268。



「森林・林業基本法成立後の新政策の展開について」 
                                             小澤普照
 はじめに

 日本列島を空から眺める時に印象が深いことは、全体が豊かな森林の緑で覆われていることであろう。しかし一旦地上に降り立ち、森林を間近に見ると、多くは間伐などの手入れが行き届かない、過密な森林となっていることである。さらに森林に立ち入れば、生育不十分な林木や土壌の流亡など不健全な状態が増加していることがわかる。林業や林産業の不振の理由は少なくともここ20年は言い続けられてきたように、山村地域の過疎化、森林所有者の高齢化、不在村化などに加えて木材の貿易自由化に伴う外材の流入、木造住宅の減少、森林作業や木材の加工流通のコスト上昇など多くの事柄が挙げられている。一方、森林の機能に対しては、国土保全や水源かん養については不変の期待があるほか、新たに地球温暖化防止の観点から、温暖化ガス吸収源としての機能に期待が高まっている。
 これらを背景として、平成13年6月、林業基本法が森林・林業基本法に改められ、同年7月施行された。顧みるに、林業基本法の主たる目標であった林業振興を主軸とする政策理念は、法律成立時の昭和39年から数年を経ずして、その後生じた森林・林業を取り巻く急激な状況の変化に十分対応することができないままに年月を経過したといえよう。
 今般、森林・林業基本法が成立したことは誠に時宜を得たものではあるが、温暖化問題を含め、予測が難しい将来を着実に歩むため、改正基本法のもとに適切な施策が展開されることが期待される。
 
 森林・林業基本法が目指すもの

 森林・林業基本法の基本理念は、一つには森林の有する多面的機能の発揮であり、ひとつには林業の健全な発展である。森林については国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等の多面的な機能を持続的に発揮されるよう、将来にわたって、適正な整備・保全が図られるべきであるとするものである。 林業については、森林の多面的機能の発揮に重要な役割を果たしていることにかんがみ、その健全な発展が図られるとともに、林産物の適切な供給及び利用の確保が欠かせないことから林産物の利用の促進が図られることが必要であるとしている。
 次いで関係者の責務等について明確にしている。すなわち基本理念に則った施策の策定・実施を国の責務とするほか、地方公共団体の責務、国有林野事業については公益機能の維持増進・林産物の持続的計画的供給・地域産業振興への寄与等の運営指針、森林所有者等の責務、木材産業の事業者を含む林業従事者等の努力についてそれぞれ定めている。  また、森林・林業施策を総合的かつ計画的に推進するため政府は基本計画を策定することとしている。さらに森林の多面的機能の発揮に関する施策として、森林整備の推進、森林保全の確保、技術の開発及び普及、山村地域における定住の促進、国民の自発的な活動の促進、都市と山村の交流、国際的な協調及び貢献について定めている。
 林業の健全な発展に関する施策として、望ましい林業構造の確立、人材の育成及び確保、林業労働に関する施策、林業生産組織の活動の促進、林業災害による損失の補てんについて定めるとともに林産物の供給及び利用の確保に関する施策として木材産業の健全な発展、林産物の利用の促進及び輸入に関する措置について定めを設けている。
 以上を概観すれば、目指すところは、国土保全や水源かん養などの明治時代から森林法体系に組み込まれてきた伝統的な要素と温暖化対策という新たな要素及び経済的側面としての林産物の供給問題というように新旧及び多様な要素が混在する構成となっている。

(森林・林業基本計画の策定等のポイント)

 平成13年10月26日、森林・林業基本計画の閣議決定が行われた。 基本計画は、森林・林業基本法の理念を踏まえて再構築された政策体系であり、21世紀における森林及び林業に関する基本的な指針として位置付けられる。内容は多岐にわたるが、ここでは新たな施策として重要と考えられる事項に絞って触れることとする。

 (多面的機能の発揮)

日本列島がいかに緑に覆われていても、折角の森林が活かされなくては意味がない。
 森林の機能が多面的であるが故に、また機能が重なり合っているために、個々の森林の役割が必ずしも明確に理解されにくい状況があった。しかし、これを明確に区分することについては、重複する機能を分解してしまって良いのかというためらいもあった。
 新たな基本計画では、表に示すように、これを「水土保全林」、「森林と人との共生林」、「資源の循環利用林」と大胆に3区分された。今後は、それぞれの区分ごとに望ましい森林の姿へ誘導するということになる。この場合、過去における画一的な森林整備方式ではなく、きめ細かに行う必要があることから、相応しい施業方法として育成複層林施業を大幅に採用する計画となっている。 
    
 (地球温暖化防止への貢献)

 森林・林業基本計画では、温暖化防止への貢献について、森林のカーボンシンク機能に着目し、吸収源としての機能が低下しないよう適切な森林管理を行うことや耕作放棄地等への植林の推進について言及している。
 平成13年11月、モロッコのマラケシュで地球温暖化防止・京都議定書の最終合意を目指す締約国会議(COP7)が開催され、排出権取引等の京都議定書の運用ルールが合意された。関連事項が固まり、同時にボン会合(COP6再開会合)で認められた、我が国の温暖化ガス削減目標6パーセント(1990年を基準とする)のうち3.9パーセントを森林によって達成するという目標が確定した。なお吸収源対策は人為的活動を前提としていることから、このことを踏まえた今後の森林の整備・管理が必要とされる。

 (関連措置等)

 森林・林業基本法改正と同時に、森林法が改正され、具体的には森林・林業基本計画の策定に伴い、これとの整合を図るため全国森林計画について森林整備目標等の計画量の見直しに加え、「水土保全林」及び「森林と人との共生林」については、新たな計画事項としてそれぞれの機能増進についての考え方が記述するなど計画の変更が行われた。
 なお、平成13年12月末までに、都道府県段階において地域森林計画が、さらに13年度末までに市町村森林整備計画がそれぞれ見直されることとなっている。
 以上のほか、林業の経営基盤の強化及び木材の生産、流通の合理化についての基本方針の見直しも併行して行われ、今後新たな施策が展開されることになる。


 新政策展開への課題と道程

 内容一新の基本法の目指す政策が実現するか否かは、現実の諸課題が解決の方向に向かうかどうかで評価されることである。このためには重点を絞り、基本法の理念に即した果敢なチャレンジが必要である。すなわち行政はどう動くか、関係者の意識と行動はどう変化するのか、国民参加の道はどのように開かれるのかということである。
 行政の対応としては、視野のグローバル化ができるかどうかが問われるであろう。
 例示的には、近年欧州を襲う森林暴風被害への当事国の対応を見ると大規模被害(1990年ドイツ中心に7000万立米、1999年フランス、ドイツ、スイスで1億5000万立米)に対し、2,3年で被害木を処理するという迅速性や経常伐採を圧縮して被害木を優先処理し、事後広葉樹を導入するなど手際の良い対応を行っており、森林危機管理の参考となる。
 また隣国中国政府がこの夏発行した「中国林業」によれば、6大工程(天然林保護、三北(東北、華北、西北地区)等防護林、退耕還林、北京周辺地域治砂、野生動物等保護区建設、早生・多収穫用材林基地建設の各工程)という重点を明確にし、その実現のため年間400万haの造林等を実施するもので、国家林業局は飛躍的な林業発展のため"超常規的"な方法と措置をとるとしている。超常規とはいうまでもなく、常識、慣わしを超えることを意味している。
 一方、我が国はどのような姿勢で政策を進めるべきであろうか。抜本的改革を表に掲げながら、"チョー常識的"な行動様式に固執する限り未来展望は開けない。今後いかにしてマンネリ化した従来の政策や産業活動、ライフスタイルから脱出することができるかということが問われている。
 最近、関係者や関心者による活動として地域材利用運動が小規模ながら各地で起きている。しかし現在のところ、山の頂きからの呼びかけも、なかなか下界には声が届かない。水平型の発想が必要との声も聞こえる。IT時代といわれても林業からの発信は極めて少ないのが現状であり、地域材関係のホームページを見ても、森の素晴らしさ、木の良さは伝わっても、肝心の木や住宅をいくらでどう供給するかという情報が決定的に不足している。立派な木造校舎ができたというニュースは散見されるが、全国の公立校の床面積に占める割合は僅か2パーセントに過ぎない。木造住宅の着工数も減少している。最近中国の上海から100キロから200キロ程度内陸の農村部では建坪100平米程度はあるといわれる3階建ての大型住宅の建設が盛んである。これらの住宅は内装、家具の購入を含め今後の内需拡大に大きく寄与すると見られる。わが国ではどうか、融資や税制の面をみても、大型を推奨しているようには見えない。景気の回復や木材の需要を考慮するならば、政策の転換が必要である。
 いずれにしても、心の豊かさ、癒し、エコロジカルなライフスタイル、温暖化対応貢献など国民の求めるものは急速に変化している。
 地域材を用い、森林との共生を実現するには森林・林業サイドからの働きかけと同時に受け皿となる地域社会の存在が必要と考える。第一歩として、大都市部との交流可能な森林地域を公募等で選択し、エコ型のモデル地域を設定すべきである。この際、ドイツにおける環境首都なども参考になる。モデル地域では、定住用ゆとり型木造住宅、バイオマスエネルギー等の自然エネルギー利用の組み込み、木質リサイクル・リユース工場、マルチ型技能者育成・トレーニング施設、ボランティアの受け入れ環境等が一体型でセットされることが望ましい。また意欲的な人材による林地所有や施業権の獲得を可能とする柔軟な政策の推進、一定日数以上の滞在者には省エネカーの無料もしくは低料金貸与などの関連メリットシステムを創設するなど総合的施策が効果的である。
 最近、熱帯林における違法伐採を非難する声が高まっている。対応策としては森林認証、木材認証などの導入も有効と考えられるほか、コスタリカや中国雲南省におけるエコ・ツーリズムの発展が森林の無秩序な開発に歯止めをかけている現実を評価し、森林関連の国際的支援策として考慮すべきであろう。

 むすび

 世界の各地を訪問するにつけ、諸外国に比してわが国では森林・林業に悲観的な考えを持つ人が多い。我が国に必要なことは、国際的な人的交流や情報交流を盛んにして林業コストや作業方法等について見直すところは徹底して見直すという改革マインドが欲しい。
 また森林・林業についての追い風はあくまで、国民参加の推進、温暖化問題貢献など脱過去型の意識を持って、向社会的な発想と行動で森林・林業問題に取り組む場合にもたらされるものであるとの認識が必要と考える。
                               「公庫月報」平成13年12月号掲載
    
                                        (平成13年11月14日)



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