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木材流通とは

第1章流通には、物流と商流がある

与信管理の失敗例、チェック点

昭和二十二年、私が商売を始めた時は、商売がなんたるものであるかも知らず、全く手さぐりでしたので、この与信管理で手痛い失敗をしたことがあります。

 終戦直後の昭和二十三年頃の話ですが、木曜日に初めての人がタルキ一束か二束を現金で買いにきたわけです。「こんど、だいぶいい家を建てまんねん、現金で買わしてもらいまっさ」と言うことなので、「そりゃあまあ結構なことで、どうぞ一つよろしく」と言うことです。二回目の金曜日にきたときは、二トン車に軽く取りにきて、それも現金で払う。三日目にきたときには、「今日は土曜日の午後なもんだから、金を持ってこれないんで、小切手ですみませんけれど……」と言うので、「それはもう結構です。いつも現金でくれているところやから」と言うと、その時には二トン車に一杯買って帰る。日曜日にまたきて、「今日は最後の棟上げやからあとの材料を皆もらいにきました。これもきのうと一緒で、日曜日で金を出せませんので、小切手にして下さい」と言う。で、荷物を渡して、月曜日に銀行に小切手を持っていったら、預金不足で不渡りだということでした。少しばかり現金をもらって、あとの大部分はまるまる不渡りだということになった。相手は、仕方なしに不渡りを出したのとは違うわけで、初めからこちらをだましにくるわけです。こちらが、「この男はだましにきたな」と察知し得なかったことが、与信管理の失敗です。いまならこんな馬鹿げた引っ掛りはしないわけですが。その当時相手の顔を見て、「あんたにはよう売らんわ」と言った事がありました。「現金で買うのに、なんでよう売らんのや」「いや、よう売らんのや」。大変おこって帰った人もいましたけれど、この事は、その男とつき合いをしていたら、どこかで引っ掛けられると思うから、始めからおつき合いをしないでおこうということなのです。

 それから、「あそこの経営者はバリバリやっているけれど、最近、キャバレーで二号をこしらえているらしいぜ」という話を聞くと、「そんな者との取引は止めておこう」ということになります。あの店はこの前までマンションに入っていたのに、「一遍に大きな事務所を派手に建てた」というような時には、「そんならもう取引はしばらく止めておこう」ということになります。また、山本商店では買ってもらっていたけれど、「山本商店の営業マンが独立した」という時には、「そこにはしばらく売らない方が良いのではないか」となります。経理の者が独立した場合ならば大丈夫ですが、営業マンが独立しても、だいたい三年位しかその店は持たないのが多い。経理も営業も両方を知っている者ならば大丈夫だけれど、経理を知らないで営業部長だけをやっていたという人は失敗し勝ちです。それは、経営感覚の中に、経理感覚というか金融感覚というものがないからです。仕入れは手形で買う、売ったものは手形で入ったり現金で入ったり、手形で入ったら銀行で割引をする、その金はみんな儲けだと錯覚してしまうわけです。だから、得意先を接待して金を使うとか、あるいは事務所のよいのを作るとか、本当の金でなく回っている金をつぎ込んでしまうわけです。そこらが営業マンの倒産する原因であり、そういうところを見極めるのが与信管理なのです。もちろん、それには勘だけでは分からないので、何年かの先方の貸借対照表がどういうように変化してきたのか、いまの社長はどういう人なのかということを、興信所や銀行やいろんな人に聞いて調べてもらうわけです(銀行は悪くてもはっきり言わないから頼りになりませんが)。 だいたい、三〇歳代で大きくやっているなというところは、あぶないと思った方がよいでしょう。五〇代、六〇代になったら、自分の先が見えてきますから、無理をしない、無理をしないということは、倒産しないということにつながります。若い人は、人生やり直しがきくと思うから、どうしても無理をするでしょう。無理をするということは、経済が変動するとか、大量受注していた相手が倒産してしまうとかいった簡単なアクシデントで、こちらがひっくり返ってしまう原因になります。

 そういったことをよく見ることが与信管理であって、与信管理については次章で更に述べますが、いままで産地の製材所が出てきて店を出し、倒産して帰るものの大半は、この与信管理の不十分さからきているものであることを、十分に噛みしめていただきたいと思います。