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平井信二先生の樹木、木材研究

アフリカ・ウォルナット属
1.アフリカ・ウォルナット属
 アフリカ・ウォルナットLovoaゼンダンMelicaceaeのマホガニー亜科Subfam Swietenioideaeに属し、サペリ属Entandrophragmaにきわめて近いが、花が4数性であることを主にして異なっている。アフリカのみに10種ほどが分布して、主要アフリカ・ウォルナットLovoa trichilioides HARMSの名によって、英名にAfrica walnut、仏名にDibetouを用いることがある。
 常緑高木で、葉は頂小葉のないおおむね偶数羽状複葉で大きく、互生する。小葉はふつう6~16個あり、対生または対生近く、托葉をもたない。
 通常腋生する円錐花序を出し、花は両性花、またまれに単性花になるが同株で、4数性、放射相称である。がくは一般に4個のがく片からなり、花弁もふつう4個で離生する。雄ずいの花糸部分が合着して短い円筒形の雄ずい筒を形成し、その上端に葯を3 ~10個、ふつう8個つける、雌ずいは1個で、子房上位、基部を花盤が取り囲み、子房は2~5室、ふつう4室で各室に胚珠4個が下垂して中軸につく。子房の上は花柱、柱頭となる。果実は木質のさく(蒴)で、長い円筒形など、ふつう4弁に列開する。種子 は1端に長い翼をもち、その先端が果実中軸について本体はぶら下がる形となる。
 材の組織、性質と利用は主要種アフリカ・ウォルナットの項で記す記載でほぼ代表される。  
2.アフリカ・ウォルナットの概要
 アフリカ・ウォルナットLovoa trichilioides HARMS(異名Lovoa klaineana PIERRE SPRAGUE)は熱帯西アフリカのギニア湾沿岸地域の降雨林に生じ、シエラレオネから東へ中央アフリカ、コンゴ、アンゴラ北部までに分布する。英名をAfrica walnut、Gold Coast walnut、lavoa、lovoa wood、alona wood、Congo wood、tigerwood、独名をafrikanischer Nussbaum、仏名をnoyer d'Afriqua、noyer de Gabon、dibetou、シエラレオネでwnaimei、コートジボアールでdibetou、ガーナでdubini biri、temamire、penkwa、mpengwa、akuwatanuro、fuga、trinabri、pepedom、ナイジェリアでapopo、sida、anomomila、abuwe、ikwahobo、カメルーンでbiboio、bilobo、赤道ギニアでnvero、embero、ガボンでeyan、dilolofiote、ombolo m'bolo、コンゴでbombolu、ザイールlifaki、womboln、moinduなどという。
 高さ55mm、直径1.5mまでになる常緑大高木で、樹幹は円柱状で直通、枝下が25m以上となるものがある。根元に円頭の4個の板根が出るが、高さ1.5m以上には上がらない。ときに板根がなく僅かに溝が入るものがある。樹皮は灰褐色、褐色などで比較的薄 く、高令木では薄い裂片になって剥げる。葉は偶数状複葉で、小葉4~14個からなり、長さ20~40cmである。小葉は対生またはほとんど対生し、楕円形などで長さ6~20cm、幅3~8cm、短いやや鋭尖頭を示す。全縁、側脉は約20対あり、両面無毛である。小 葉柄の長さは0.2~1cmで、総葉柄は基部近くで僅かに翼が出る傾向がある。
 幅の広い円錐花序を腋生または頂生し、長さは30~40cmである。がく片は4個、花弁は4個で長さ約4mm、緑白色を呈する。雄ずい筒の上端へ葯8個をつける。さく果は下垂し、円筒形で長さ2.5~5cm、幅1~1.5cm、木質で紫黒色を呈する。熟して基部から 4弁に裂開し、数個の種子をあらわす。種子は径約0.6cmで、1端に長さ2~3cm、幅約0.7mmの翼をつけ、その先端で果実の中軸につく。  
3.アフリカ・ウォルナットの材の組織
 散孔材。辺、心材の区別は明瞭で、辺材の幅は狭い。辺材は淡黄色、淡褐色でなど、心材は褐色、暗褐色で、ときに黒色に近い縞があり、その感じはクログルミ(ブラック・ウォルナットJuglaus nigra LINNAEUSによく似ている。材はまた鈍い金色の光沢を帯びる。生長輪はふつう認めにくい。木理は一般に交走して放射断面でリボンもく(杢)をあわらし、肌目はほぼ中位である。材に特別な匂いと味はない。やや大径のものはしばしば脆心材をもつ。
 材の顕微鏡的構成要素が材を構成する割合を求めた1例では次のようである。道管19%、繊維60%、軸方向柔組織4%、放射組織17%。
 道管は単独および2~3個、ときに5個までがおもに放射方向に接続し、分布数は4~14/mm2である。単独道管の断面形は円形ないし楕円形で、道管の径は0.06~0.27mmを示す。せん孔板は少し傾斜し、単せん孔をもつ。チロースは見られない。接続道 管の間の有縁壁孔は交互配列し、その径は0.003mmである。道管と放射組織の間の半縁壁孔もこれに似ている。道管の中に黒褐色の樹脂様物質が沈積していることが多く、材面で微小な黒斑として現れる。
 材の基礎組織を形成する繊維は真正木繊維(または繊維状仮道管?)で、隔壁繊維は見られない。長さは0.8~1.6mm、径は0.01~0.03mm、壁厚は0.003~0.005mmである。
 軸方向柔組織は量が少なく、その現れ方が一般的にかなり不規則である。周囲中組織はほぼ1、ときに0、2~3細胞層で、また接線方向に6細胞まで連なる翼状組織ないし短い連合翼状柔組織になる傾向のものが多い。通常の帯状柔組織が規則的に現れる ことはほとんどなく、傷害垂直間道が並列して出る場合にこれらを包含する形で出現し、またターミナル柔組織になって現れることがある。これらの場合放射方向の細胞層数は不規則で、1~18細胞層にわたる。さらに短接線柔組織および単独散在の柔細胞 に移行する形、連合翼状柔組織と移行する形と思われるものもある。軸方向に鎖状に縦列する結晶を含む多室結晶細胞がしばしば認められる。柔細胞の径は0.01mm~0.04mm、壁厚は0.001~0.002mmである。一般に細胞内の含有物は比較的少ない。
 放射組織は1~6細胞幅であるが、3~4細胞幅のものが多く、単列のものはきわめて少ない。2~35細胞高を示す。その構成は平伏細胞層のみからなる同性またはややあいまいな異性である。後者の場合、単列のものおよび多列のものの軸方向端部の単列部 1~3層、ときに中間でも直立細胞、方形細胞または丈が高く放射方向の長さが短い大型の平伏細胞の層があり、他は通常の小型の平伏細胞の層からなるが、これら細胞型は不規則で移行的である。細胞内には濃色の内容物を含む。軸方向柔組織にも放射組 織にもシリカを含まない。
 しばしば傷害垂直細胞間道が現れる。検境した例では、これらは同心円状に接線方向に並列して現れ、帯状柔組織がこれらを包む。断面形は楕円形などで、その径は0.08~0.20mm、黒色の樹脂が内容を充たしている。  
4.アフリカ・ウォルナットの材の性質と利用
 材の気乾比重に0.44~0.69の記載があり、材質数値には次のものが報告されている。含水率1%当りの平均収縮率は接線方向0.26%、放射方向0.17%、体積0.43%縦圧縮強さ460~600kg/cm2、横圧縮比例限度は放射方向102kg/cm2、接線方向67kg/cm2、 縦引張強さ500~1,420kg/cm2、縦引張ヤング係数11.1~15.2×10(4)kg/cm2、曲げ強さ690~1,150kg/cm2、曲げヤング係数7.8~11.8×10(4)せん断強さは放射断面87kg/cm2、接線断面95kg/cm2、衝撃曲げ吸収エネルギー0.30~1.35kg・m/cm2、ブリネ ル硬さは横断面3.6~4.8kg/mm2、放射断面1.8~2.2kg/mm2、接線断面2.2~2.6kg/mm2。
 材の化学的組成に次の報告がある。ホロセルロース67.4%、αセルロース40.1%、ペントザン16.6%、グリニン38.5%、フルフラール12.1%、アルコール・ベンゾール抽出物5.1%、NaHO抽出物17.0%、灰分0.51%。
 製材は容易である。乾燥は用意で速く、狂い、割れなどの損傷は少ない。また乾燥後の寸法安定性も良い。切削加工は容易であるが、交走木理が著しい放射面の鉋削では逆目ぼれを防ぐために切削角を適当にすることが必要である。釘、木ねじの保持、 接着、塗装、研磨もほぼ良好である。製材、研削などの作業で材粉が粘膜を刺激するなどの健康阻害があることが知られている。曲木はほぼ良いとされている。心材の耐朽性は中位からやや高いが、白蟻に食害される。丸太で放置するとピンホールが生じ 、また辺材はヒラタキクイムシの食害を受ける。心材への防腐剤注入は困難である。
 用途には建築構造・内装・造作材、とくにパネル、モールディングなど、家具とキャビネット、ボウルや盆などを含む器具、車両、ボート、銃床、ビリヤード台、旋削物、寄木細工その他があり、ことに材面に縞があるものはウォルナットの代用材に用 いられ、化粧ベニヤ、合板の形で使われることも多い。西アフリカ諸国からヨーロッパ各国にかなり多く輸出される。  
5.Lovoa swynnertonii BAKER FIL
 Lovoa swynnertonii BAKER FILはザイール東部およびケニアからモザンビーク、ローデシアに至るアフリカ東部に分布し、英名はEast Africa walnut、miniature wooden banana、ケニアでmukongoro、mutunguruという。
 しばしば高さ50mに達する常緑大高木で、板根はほとんど出ない。樹皮は灰色から褐色を呈し、円形の薄い裂片になる傾向がある。葉の長さ15~30cmのおおむね偶数羽状複葉で、小葉6~16個、通常12~16個からなる。小葉は対生または対生に近く、長楕 円形、皮針形で長さ6.3~10cm、幅4cmまで、やや鋭尖頭で、基部は楔形を示す。始め細軟毛があるが後に無毛になる。葉軸は角ばっている。
 やや密な頭状に近い円錐花序を出し、長さは15cmまでで、多数の花をつける。花は単性花であるが同株で、白色を呈し4数性である。がく片4個は基部でのみ合着、花弁4個は離生する。雄ずい筒はコップ形で、雄花では葯を8個つけるが、雌花では葯を欠 いている。子房は花盤に包まれ、雄花では不稔である。さく果は円筒形で長さやく5cm、木質で暗褐色を呈し、4または5片に裂開する。種子は翼を含んでの長さ3~4.5cmである。
 散孔材、辺・心材の区別は明瞭で、辺材は汚白色、心材は暗灰褐色で暗色の縞をあらわすものがある。木理は通常交走し、材面に光沢がある。
 密管は単独および放射方向に、ときにやや団塊状に少数個が接続し、分布数は7~8/mm2である。単独密管の断面形は楕円形などで、道管の径は0.06~0.26mmを示す。せん孔板はやや傾斜し、単せん孔をもつ。チロースは見られない。道管の中に濃色 の樹脂様物質を沈積するものがある。
 材の基礎組織を成形するのは真正木繊維または繊維状仮道管で、隔壁繊維は見られない。径は0.01~0.025mm、壁厚は0.003~0.004mmである。
 軸方向柔組織では、周囲柔組織は不規則で0~2細胞層、僅かに翼状柔組織に発達するものがあり接線方向に6細胞まで連らなる。単独散在の柔細胞がきわめて僅かにあるが、帯状柔組織の形のものはほとんど見られない。柔細胞の径は0.01~0.04mm、壁厚 は0.001~0.002mmほどで、細胞内に含有物は少ない。
 放射組織は3~4細胞幅で、単列のものは見られず、10~20細胞高を示す。構成は平伏細胞のみからなる同性ないしやや異性である。後者の場合軸方向端部の単列部1~2層は方形細胞または丈が高く放射方向の長さが短い大型の平伏細胞の層、他は通常の 小型の平伏細胞の層からなる。ただしこれらの細胞型は移行的である。細胞内に含有物は比較的少ない。
 材の気乾比重は0.66、生材から気乾までの収縮率は接線方向2.5%、放射方向1.0%の記載がありその値は小さい。
 乾燥は容易で速いとされるが、切削加工はしばしば交走木理のためにやや困難なことがある。心材の耐朽性は高く、キクイムシの食害に抵抗性がある。
 材の利用はアフリカ・ウォルナットLovoa trichilioides HARMSと同様と思われるが、出材量は少ない。  
6.Lovoa brownii SPRAGUE
 Lovoa brownii SPRAGUEはザイール東部からアフリカ東部に分布する高木である。英名をUganda walnut、ウガンダでnkoba、mukusuという。
 材はアフリカ・ウォルナットLovoa trichilioides HARMSに似て、心材は暗褐色を呈するが、暗色の縞は出ない。材に光沢がある。気乾比重に0.65の記載があり、アフリカ・ウォルナットと同様に利用されると思われる。  
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