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平井信二先生の樹木、木材研究

ハリエンジュ属の樹木(その2)
4.ハリエンジュの栽培品種などと雑種
 ハリエンジュに多くの品種、栽培品種、変種と、同属の他種との雑種が知られている。品種、栽培品種、変種の関係は充分整理されておらず混乱しているが、ここではそれらの学名を栽培品種の形であげておく。おもなものをあげる。
 (1)オオゴンニセアカシアRobinia Pseudoacacia LINNAEUS cv. Aurea:英名はgolden-leaf locust。葉は多少とも黄色を帯びる。
 (2)フリシア・ハリエンジュRobinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Frisia:葉は全く黄色となる。小高木で生長は遅い。
 (3)トゲナシニセアカシア(トゲナシハナエンジュ)Robinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Inermis(異名Robinia inermis MIRBEL):樹形は普通、刺が無い。
 (4)エイコクトゲナシニセアカシアイギリストゲナシハナエンジュ、パラソルハリエンジュ、タマニセアカシアRobinia pseudoacacia LINNAEUS cv.Umbraculifera:英名はparasol locust。高さ3~4mで、枝の分岐が多く樹形はやや球形となる。刺は無い。開花が少なくほとんど結実しない。分根、接木などによって繁殖し、街路樹などに用いられる。
 (5)チントウトゲナシニセアカシア(チントウトゲナシハナエンジュ、ベソンアカシア)Robinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Bessoniana:樹冠は疎生し、樹形は卵形となる。刺は無い。  
 (6)ポプラニセアカシア(ポプラハリエンジュ)Robinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Pyramidalis(異名Robinia pseudoacacia LINNAEUS var. fastigiata LEMAIRES,non NEUMANN):英名はpyramid locust。樹形は柱状で、刺は無い。
 (7)シダレニセアカシアRobinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Pendula:英名はweeping locust。小枝は下垂する。
 (8)ネジレニセアカシアRobinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Tortuosa:枝はジグザグに曲がり、若枝はコルク栓抜きのように捩れる。葉はしばしば下垂し、開花は稀である。
 (9)カットリーフ・ローカストcut-leaf locust)Robinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Dissecta:小枝は短く、小葉は線形から皮針形で切れ込みがある。
 (10)クリンクリーフ・ローカストcrink-leaf locust)Robinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Crispa:小葉は小さく細く、葉縁が縮れる。
 (11)シキザキニセアカシアRobinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Semperflorens:刺は少ない。初夏と初秋に2度開花する。
 (12)シップマスト・ローカストshipmast locust)Robinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Rectissima(異名Robinia pseudoacacia LINNAEUS var. rectissima RUBER):樹冠は狭く樹幹は通直で、母種より形が良い。花つきが少なく、がくはより緑色を呈する。
材の耐朽性は高いという。
 (13)パープルリーフ・ローカストpurple-leaf locust)Robinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Purpurea:葉は紫色を帯びる。
 (14)ブルー・ローカストblue locust)Robinia pseudoacacia LINNAEUS cv. Glaucescens:葉は灰青色を帯びる。
   同属の他種との雑種で代表的なものを次にあげる。
 (1)Robinia × margaretta ASHE:ハリエンジュとハナエンジュRobinia hispida LINNAEUSの雑種。高さ3~4mまでの低木から小高木で、ハリエンジュによく似ているが、葉下面に軟毛をもつ。花は淡紅色で、長さ15cmまでの総状花序につき、花序軸・花梗・がくに細軟毛があり、やや腺質である。
 (2)Robunia ×ambigua POIRET(異名Robinia dubia FOUCAULT、Robinia intermedia SOULANGE-BODIN):ハリエンジュモモイロハリエンジュRobinia viscosa VENTENATの雑種。ハリエンジュによく似ているが、小枝に小さい腺毛があって粘着性を示す。小葉は15~21個でやや多く、花は淡紅色である。次の栽培品種がある。
  a.ピンク・ローカストpink locust)Robinia×ambigua POIRET cv. Decaisnea(異名Robinia pseudoacacia LINNAEUS var.decaisnea CARRIERE):小枝の腺毛は少ないかまたは全く欠き、粘着性が少ない。がくは毛が多い。花は桃紅色でである。
  b.Robinia ×ambigua POIRET cv. Bella-rosea(異名Robinia bella-risea NICHOLSON):小枝の腺毛は母種よりも多く粘着性が強い。花はやや大きく花色が濃い。
 (3)Robinia ×slavinii REHDERハリエンジュケルシーニセアカシアRobinia kelseyi HUTCHINSONの雑種。後者の方に似ているが、小葉の幅が広く鋭頭ないし鈍頭を呈する。花つきがよく淡紅色である。豆果の表面は微細な粒状物があって粗い。
 (4)ホルトニセアカシアRobinia×holdtii BEISSNER:ハリエンジュニューメキシコ二セアカシアRobinia neo-mexicana A.GRAYの雑種。高さ20mまでの高木で、花は白色に紫紅色を散らし美しい。豆果に散生毛がありやや粘質である。  
5.ハリエンジュの材の組織
 環孔材。辺・心材の区別は明瞭で、辺材はきわめて狭く黄白色~淡黄色を呈する。心材は新鮮時は黄緑色~緑褐色であるが、次第に暗色を増し褐色あるいは暗褐色となる。年輪はきわめて明瞭である。木理はほぼ通直であるが、ときにやや不規則になり 、肌目は不均質で粗である。材のアルコール浸出液はフラボン反応をきわめて明瞭にあらわし、また水浸出液は蛍光を発することが顕著である。
 材の顕微鏡的構成要素が材を構成する割合を測定した1例では、道管14.8%、真正木繊維57.9%、軸方向柔組織 6.4%、放射組織20.9%を示している。
 早材の孔圏では大径道管が2~3、ときに4層あり、孔圏外で径を減ずるが、やや急に小さくなるものもある。孔圏では道管は単独または2~3個が接続し、分布数は5~10/mm2、単独道管の断面形は円形~卵形で、径は0. 15~0.40mm、せん孔板は水平または僅かに傾斜し単せん孔をもつ。孔圏外では単独道管もあるが、ことに年輪末端近くで数個槐状に集合するものが多く、道管状仮道管、周囲に発達する周囲柔組織とともに接線方向にやや長い斑点状の模様を呈する。晩材 部の道管分布数は10~35/mm2、径は0.07~0.12mmで、せん孔板はやや傾斜し、単せん孔、小道管は内壁に細いらせん肥厚をもつ。道管相互間の有縁壁孔はベスチャード壁孔である。チロースを含むことがきわめて著しい。道管状仮道管は道管の周辺に存 在する。
 真正木繊維は長さ1.0(0.5~14)mm、径は0.015~0.025mm、壁厚は0.003~0.005mmである。
 軸方向柔組織では、周囲柔組織がよく発達し、孔圏で1~4細胞層、孔圏外では小道管群を中に含んで環状から接線方向にやや長く帯状に延び、放射 方向に6細胞層までの模様となる。ターミナル柔組織は年輪末端に放射方向に2~4細胞層で存在する。ほかに基礎組織中に単独で散在する柔細胞が少数である。多室結晶細胞も存在する。柔細胞の径は0.015~0.035mm、壁厚は0.001~0.002mmである。
 放射 組織は1~5、ときに6細胞幅であるが、単列のものは少なく、2~60細胞高である。構成はすべて平状細胞からなる同性である。細胞内に菱形の結晶あるいは樹脂様物質を含むものがある。  
6.ハリエンジュの材の性質とその他の利用
 材の気乾比重に0.55~0.90の範囲の記載があり、0.70~0.80程度が多いと思われる。生材から全乾までの全収縮率の1例をあげると、接線方向7.2%、放射方向4.6%、体積10.2%で、比重の割合には小さい値と思われる。強度数値では気乾比重0.69のもの で、縦圧縮強さ713kg/cm2、横引張強さ45kg/cm2、曲げ強さ1,358kg/cm2、曲げヤング係数14.4×10(4)・kg/cm2、せん断強さ174kg/cm2、ヤンカ硬さは縦断面で771kgである。また気乾比重0.77(0.58~0.90)のものの例では、縦引張強 さ1,480(1,000~1,800)kg/cm2、横引張強さ43kg/cm2、衝撃曲げ吸収エネルギー1.14(1.10~1.50)kg・m/cm2、ブルネル硬さは横断面7.4(6.5~9.4)kg/mm2、縦断面4.8kg/mm2が報告されている。
 材の化学的組成の例では、セルロース40.6%、ペントザン21.3%、リグニン29.1%、アルコール・ベンゾール抽出物4.9%、灰分0.3%を示す。タンニンは樹皮に2.2~7.2%、材に3.4~4.8%含まれている。
 材の乾燥は遅く、狂いが出る傾向がある。手加工および機械加工により切削はやや困難である。接着、塗装、研削、旋削などにはあまり問題はなく、釘打ちは材が硬いため困難であるが釘の保持力は大きい。心材の耐朽性は接地条件などでも大きく、ま た害虫を受けない。
 材の耐朽性が高いので土木的な用途には好適で、かつて枕木、電柱、柵柱、鉱山用材などに多く用いられた。ことにアメリカでは電柱腕木、とくに電線碍子の留台として重要なものとされた。また、第一次世界大戦前に中国山東省膠済鉄道の枕木として 使われたことはよく知られている。そのほか建築構造材・造作材、道具の柄などの器具材、機械部材、船舶とくに帆柱、造船その他の際の木釘、車両、桶樽、包装用材、旋削物その他がある。薪材としても火力が強く優秀とされている。
 葉は緑肥となり、また家畜の飼料にすることがあるが、有毒成分を含んでいるので中毒を起すことがある。樹皮などが下剤、吐剤、強壮剤などの薬用となることがある。若木の樹皮の繊維はかなり強いので、帽子などの製造に用いられたこともある。
 花はよい蜜源としてよく知られており、わが国では秋田県小坂など植栽が多い処では養蜂によく利用されている。樹は街路樹、公園樹に、また山地砂防、荒廃緑地化に多く植栽される。鹿島清三郎氏はこの樹の植栽と利用、とくに家畜の飼料、樹皮繊維 、材の乾溜などについて研究し、大正12年(1937)に『ニセアカシア樹の研究』という著書を刊行している。    
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