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平井信二先生の樹木、木材研究

ナンキョクブナ属の樹木
27.Nothofagus menziesii OERSTEDの概要
 Nothofagus menziesii OERSTEDはニュージーランド産で、英名をsilver beech、Southland beech、現地でtawhaiという。
 高さ30mまで、直径2mまでになる常緑高木で、ときに大きい板根が出る。樹皮は若令木では銀白色であるが、年を経ると灰色を呈し、縦の割れ目が入って裂片化しささくれ立ってくる。若枝には褐色毛を布く。葉は三角状広卵形、または菱形からほとん ど円形で、長さ0.6~1.5cm、幅0.5~1.5cm、鈍頭ないし円頭、基部は広い楔形から円形、切形を示した左右不同である。厚い革質で、縁は厚目になって不規則な重鋸歯をもつ。下面の中肋を除き両面無毛、通常最下側脉の脉腋に縁毛があるドマティア(dom atia、寄生小虫の住居)を1または2個もつ。葉柄は長さ2mmで褐色毛を生ずる。新葉はしばしば黄色で縁が橙黄色を呈する。
 雄花序は小枝から出る柄上に1~4個つき、1つの花序は長さ3mmの散生毛ある花柄にのる1個のみの花からなる。雌花序は腋生の柄上に1~4個がつき、小枝上ではこれらは雄花序より先の方に位置している。各花序は2~3花からなり、短い有毛の花序柄を もつ。殻斗は4個の裂片からなり、各裂片は突起状でその先端が膨れた腺体となる4~5層で構成され、中に1個の堅果をもつ。
 枝上に寄生菌Cyttaria sp.が作った橙黄色のキノコを生じているものがある。  
28.Nothofagus menziesii OERSTEDの材の組織、性質と利用
 散孔材。辺材は灰白色で狭く、心材は淡紅褐色、紅褐色を呈し、両者の間に推移帯がある。生長輪は不明瞭である。木理は一般に通直、肌目は精で均質である。
 道管は単独および2~5個が放射方向に、ときに8個までが団塊状に接続し、分布数は70~90/m㎡である。単独道管の断面形は楕円形から長楕円形で、道管の径は0.03~0.14mmを示す。せん孔板は水平ないし傾斜し、単せん孔をもつ。道管と放射組織の 辺縁の大型細胞との間の半縁壁孔対または単壁孔対は横の長方形で大きいものがあり、階段状などに配列する。チロースが見られる。
 材の基礎組織をなす真正木繊維または繊維状仮道管に隔壁は見られない。径は0.01~0.02mm、壁厚は0.003~0.005mmで ある。
 軸方向柔組織はきわめて少く、道管周辺も含めて単独で散在する柔細胞と、放射方向に1~3細胞層、ときに一部欠如するターミナル柔組織とがある。12隔室ほどまでの多室結晶細胞が存在するが、結晶が鎖状に連続して連ならず空室の部分を含むものが ある。柔細胞の径は0.01~0.03mm、壁厚は0.001~0.002mmほどである。
 放射組織は1~2まれに3細胞幅で、5~25細胞高を示す。その構成は異性で、単列のものおよび多列のものの軸方向両端1~4層の単列部は、多くは直立細胞または方形細胞の層、他は平状細胞の層からなる。細胞内に着色した内容物を含む。
 材の気乾比重に0.44~0.79の記載があり、一般にニュージーランド南島産のものは北島産より軽軟である。材質数値では次の報告がある。生材から気乾までの収縮率は接線方向5.7%、放射方向3.1%、縦圧縮強さ427kg/c㎡、曲げ強さ853kg/c㎡ 、曲げヤング係数12.2×10(4)・kg/c㎡、ヤンカ硬さ732kgを示す。
 製材は普通、乾燥は材質によって変化があり、普通またはやや困難で木口割れが出やすいものがある。切削加工は一般に容易で、仕上げ面はほぼ平滑である。塗装、研磨、釘・木ねじの保持などはおおよそ良好で、蒸し曲げ加工には好適とされている。
 心材は耐久性があり、辺材もヒラタキクイムシの食害は少い。心材への防腐薬剤の注入処理は困難である。
 一般に南島産のものは良質で加工容易とされている。建築構造材、フローリングを含む建築内装・造作材、家具・キャビネット、工具の柄などの器具材、車両、船舶・ボート、箱と包装材、枕木、施削物、玩具その他に用いられる。  
29.Nothofagus solandri OERSTEDとNothofagus blairii KRASSER
 Nothofagus solandri OERSTED(異名Fagus solandri HOOKER FIL.)はニュージーランドの南北両島に生ずる。英名をblack beech、Solander's beech、entire-leaved beech、New Zealand beech、New Zealand birch、black birch、white birch、現地名をtawhairauriki、towhai、towaiという。
 高さ25m、直径1mまでになる常緑高木で、樹皮は灰白色から灰褐色を呈し、年を経て縦の割れ目が入って裂片化する。若枝に金黄色の細軟毛を密布する。葉は長楕円形などで長さ0.6~1.8cm、幅0.5~1cm、円頭ときに小尖頭があり、基部は左右不同の楔形 を示す。革質、全縁、上面が無毛で光沢があり、縁が下面に向って巻き込み、下面には灰白毛を布く。葉柄の長さは1~2mmで金黄色の細軟毛を密布する。
 雄花序は1~2個の花からなり、各花は緑褐色の花被の中に6~7個の雄ずいがあって、葯は鮮紅色を呈する。雌花序は1~3個の花からなり微小である。果実の殻斗に2~3個の堅果をもつ。
 心材は淡紅褐色から紅褐色、褐色を呈し、ときに黒色の縞がある。生長輪は存在するが不顕著である。材に不快な匂いと味をもつ。道管の分布数は40~80/m㎡、放射組織にシリカを含んでいてとくに晩材部に偏在するとの記載がある。
 材の気乾比重に0.52~0.77の記載がある。強度的性質では縦圧縮強さ456~625kg/c㎡、曲げ強さ1026~1075kg/c㎡、曲げヤング係数12.9~14.1×10(4)・kg/c㎡、せん断強さ126~162kg/c㎡の報告がある。
 製材、切削などの加工性はほぼ普通であるが、人工乾燥の際コラップスが大きいとの記載がある。材は大径木からのものでないと耐朽性がないとされる。淡水の橋梁材などには一応用いられるが、海水中ではテレドの食害を受ける。ニュージーランド南 島に多い樹で、一般および建築構造材、建築造作材、器具、船舶などに用いられ、燃材となるものも多い。
 Nothofagus blairii KRASSERはニュージーランドに生じ、多分Nothofagus solandri OERSTED、Nothofagus cliffortioides OERSTED、Nothofarus fusca OERSTEDの間の交雑で生じたものと考えられている。高さ10~15mになる常緑高木で、若枝は有毛である。葉は卵形で長さ1.5~1.8cm、鋭頭で、基部は円形を示す。革質、全縁で、上面は無毛、下面は黄褐色の細軟毛を布く。葉柄も有毛である。果実の殻斗 は卵形で長さ6~8mm、4個の裂片は3~4層からなり無毛である。  
30.Nothofagus truncata COCKAYNE
 Nothofagus truncata COCKAYNE(異名Nothofagus fusca OERSTED var colensoi OERSTED)はニュージーランドに生じ、英名をhard beech、clinker beech、現地名をtawhairaunuiという。
 高さ30mまで、直径2mまでになる常緑高木であるが、冬季には一部落葉する。しばしば板根を生じ大径木で高さ2m以上となるものがある。樹皮は大径木では縦の割れ目が入る。若枝は僅かに有毛である。葉は楕円形、卵形、円形などで長さ2.5~3.5cm、幅 は約2cm、円頭ないし切頭、基部は広い楔形から広い円形を示す。厚い革質で上面は光沢があり、疎らな鈍鋸歯をもち、新葉以外は無毛である。葉下面の脉腋にまれにドマティア(domatia、寄生小虫の住居)を生ずる。葉柄の長さは2~3mmである。
 雄花序は小枝に1~10個がつき、各花序は長さ10mmまでの細軟毛を疎布する花序柄の上に、やや無梗の花を1~3個つける。葯は紅色または橙色を呈する。雌花序は小枝に1~5個がつき、無柄、卵形で長さ2~3mm、1花序に3個の花をもつ。
 辺・心材の区別があり、心材は淡褐色、褐色、紅褐色などを呈する。放射組織にシリカを含み、とくに晩材部に扁在する傾向がある。材の気乾比重に0.77の記載があって、やや重硬である。切削加工などはやや困難な程度で、心材は耐久性がある とされる。一般および建築構造材、建築造作材、家具、器具、枕木、電柱、柵柱、橋梁などの土木材その他に用いられる。樹皮にタンニンを多く含むのでかって鞣皮に用いられた。  
31.Nothofagus alessandri ESPINOSA
 Nothofagus alessandri ESPINOSAはチリ中部に稀に生じ、同地でruilという。
 高さ30mまで、直径1mまでになる落葉高木で、樹幹は通直である。樹皮は灰色を呈し、若枝は有毛である。葉は卵形で長さ7~13cm、幅8~9cm、鈍頭、基部は広い円形から切形ないしやや心形とな る。縁に鋸歯を持ち、側脉は11~13対あって下面で隆起する。上面は有毛、下面は青緑色を呈しやや腺質で脉上に毛をもつ。葉柄の長さは5~8mmで有毛である。  
32.Nothofagus antarctica OERSTED
 Nothofagus antarctica OERSTED(異名Fagus antarctica FORSTER)は南緯37度以南のチリとアルゼンチンからフェゴ島にわたる広い分布を示し、海抜600m以上1800mまでの比較的高地に生ずる。英名をAntarctic beech、両国でnire、anisという。
 高さ35mまでになる落葉高木であるが、ふつう20mくらいまでで、ときに低木状となる。樹皮は灰色で割れ目が入る。若枝に細綿毛を布く。葉はきわめて密につき、長楕円形で小く、長さ1.5~4cm、幅1~2cm、鈍鋭から円頭、基部は切形ないし心形を示し 左右不同である。縁に不規則な鈍鋸歯がありときに欠刻状、側脉は3~4対、下面脉上を除き無毛である。葉柄は長さ2~5mmで細軟毛を布く。
 雄花序は1または3個の花をつけ、径約4mmで下垂する。花被は広い漏斗形で5裂する。果実の殻斗は4裂片からな り、全縁の層があり、中に3個の堅果を含む。
 しばしば枝上に寄生菌Cyttaria sp.がゴルフボール大の橙黄色のキノコを作り、多汁質で甘く美味である。
 栽培品種にNothofagus antarctica OERSTED cv.Benmoreがあり、低い処から枝が出て著しく拡がって生える。変種Nothofagus antarctica OERSTED var.uliginosa REICHEは高所に生じmereという。多幹で小高木ないし低木状である。
 Nothofagus antarctica OERSTEDは散孔材で、材は淡褐色を呈する。生長輪は存在する。道管は単独および2~9個が放射方向に、ときに団塊状に接続し、単独のものは少い。分布数は100~150/m㎡である。単独道管の断面形は楕円形などで、道管の径は0.03~0.11mmを示す。せん 孔板は水平近くから傾斜するものもあり、単せん孔をもつ。道管と放射組織の辺縁の大型細胞との間の半縁壁孔対または単壁孔対は横長の楕円形などで大きく、階段状に配列するものが見られる。チロースが存在する。
 材は基礎組織をなす真正木繊維ま たは繊維状仮道管はときに少数の隔壁をもち、径は0.01~0.02mm、壁厚は0.003~0.004mmである。
 軸方向柔組織はきわめて少く、道管周辺を含んで単独散圧の柔細胞と、放射方向に1~2ときに3細胞層のターミナル柔組織とがある。数個の菱形結晶が鎖状 に連なって含まれる多室結晶細胞が存在する。柔細胞の径は0.01~0.03mm、壁厚は0.001~0.002mmほどである。
 放射組織は1~2細胞幅であるが、単列で部分的に2列を示すものが多い。その構造は異性で、単列のものおよび、2列のものの軸方向両端の単列部1~2層は直立細胞または方形細胞の層、他の大部分は平状細胞の層からなっている。細胞内に着色した内容 物が多く含まれている。  
33.Nothofagus betuloides BLUME
 Nothofagus betuloides BLUME(異名Fagus betuloides MIRBEL)はチリとアルゼンチンの中部・南部からフェゴ島に分布する。チリでquindo、coigue de Magallanes、アルゼンチンでquindo、coihue blanco、coihue Magallanico、ouchpayaという。
 高さ25mまで、直径50~60cmになる常緑高木で、若枝は微細毛があって粘着する。葉は小く、小枝に2列に並んできわめて密につく。卵形、菱形から円形に近いものがあり、長さ1~2.5cm、幅は2cmまで、尖頭、または鈍頭、基部は楔形ないし円形を呈す る。質はやや厚く、微細で規則的な牙歯状の鋸歯をもつ。上面は光沢があり、下面はやや蒼白色を帯び、網脉が明らかで、暗色の腺点をもつ。葉柄の長さは約3mmである。果実の殻斗は4個の裂片からなる。この樹にも寄生菌Cyttaria sp.がつき、黄橙色で球形のキノコを生ずる。
 材は淡褐色を呈する。顕微鏡的構造では放射組織がほとんど1細胞幅のもののみの記載がある。材は建築、家具、器具その他に用いられる。樹はヨーロッパで観賞用に植栽されることがある。  
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