v2.1

平井信二先生の樹木、木材研究

タカサゴノキ属の樹木(その4)
30.マラスの概要
 マラスマライホマリウムHomalium foetidum BENTHAM(異名Homalium luzoniense F.-VILLAR、Homalium propinquum C.B.CLARKE、Homalium platyphyllum MERRILL、Homalium novoguinense VAN SLOOTEN、Homalium pachyphyllum GILG、Homalium amplifolium GILG)はマレー半島、スマトラ、ボルネオ、セレベス、モルッカ諸島、ニューギニア、ビスマーク諸島に分布し、ニューギニア地域とくにビスマーク諸島に多い。英名でTernate ironwood、aranga、malas、マレーでpetaling padang、ayer anjing、menserah puteh、pantet ulat、サバでkeruing rengkas、bansisian、takaliu、インドネシアでgia、hia、melmas、momala、samal、hate besi、pantet k'lat putih、takaliu、フィリピンでaranga、arangan、kamagahai、yagau、puyot、lasilan、パプア・ニューギニア地域でmalas、kavea、lowupなどという。
 高さ45mまで、直径1mまでになる中ないし大高木であるが、さらに大きなものは高さ62m、直径1.2mまでのものがある。樹幹は通直で、枝下は35mまで、最も大きいものは55mまでがある。高さ2mまでの険しい板根をもつ。樹皮は灰色から黄褐色、褐色の班 状を呈し、おおよそ平滑で、横の降起線と大きい皮目があり、いくらかごつごつした状態となる。小枝には初め軟毛があるが間もなく無毛となる。葉は長楕円形、卵状長楕円形、まれに卵形で、長さ10~28cm、幅5~11cm、やや急鋭尖頭、基部は楔形から 円形を示す。やや薄い革質で、通常疎らな鈍鋸歯があるか、またはほとんど全縁である。側脉は8~15対あって平行が著しく、下面できわめて顕著、網脉は一般に不顕著である。上面は無毛で光沢があり、下面もほぼ無毛である。葉柄の長さは7~15mm で太い。新葉は鮮紅色を呈する。
 円錐花序は大きく長さ7~30cmで、穂状に近い総状花序の数個から多数で複成されている。花は分枝(総状花序)の軸に沿って間隔をおいて数個ずつが輪生状に束生する。花序軸および長さ1~2mmの小花柄にはきわめて短い灰色の細軟毛を布く。苞葉 は微小な線状皮針形で早く脱落する。花は7~8数性で、がくと花弁に軟毛を布き、淡緑色ないし淡黄色を呈して、不快な匂いをもつ。がく筒部は倒円錐形で長さ1mm、がく裂片は皮針形で長さ約1.5mm、やや鋭頭、花弁は長楕円状へら形で長さ2.5~3mm 、果実に宿存して長さ4mmまでに増大する。雄ずいは各花弁の前に2個ずつがつく。子房は細綿毛を被むり、花柱は4個ある。さく(蒴)果は小さく、宿存ずるがく裂片と花弁の上に載っている。種子1ないし数個を含む。  
31.マラスの材の組織
 散孔材。辺・心材の区別は不明瞭で、外周の黄白色、灰褐色などを呈する淡色部分から、内方の黄褐色、橙褐色、紅褐色、褐色、暗褐色などの濃色部分へ移行する。これらは時間の経過とともに暗色化する。ときに辺・心材の境界が比較的明瞭に現れる ものもある。生長輪は一般に不明瞭である。木理はふつう通直であるが、また交走するものもある。肌目はやや精ないし精である。特別な匂いと味はない。リップルマークは認められない。
 材の顕微鏡的要素が材を構成する割合を求めた1例では、道管30%、繊維状仮道管(軸方向柔組織を含む)50%、放射組織20%である。
 道管は単独および2~3、ときに7個までが放射方向に、まれに団塊状に接続し単独のものは少ない。分布数は16~50/m㎡の広い範囲にわたる記載があるが、18~35/m㎡のものが多い。単独道管の断面形は楕円形などで、道管の径は0.03~0.18mmである 。せん孔板は傾斜し、単せん孔をもつ。接続道管の間の有縁壁孔は交互配列をし、その径は0.003~0.004mmで小さい。道管と放射組織の間の半縁壁孔対もほぼ同様である。チロースの発達は少ない。
 材の基礎組織をなすのは微小な壁孔縁の有縁壁孔をもつ繊維状仮道管で、ほとんどが隔壁数3~8個の隔壁繊維である。その長さは0.9~2.8mm、径は0.01~0.03mm、壁厚は0.003~0.007mmである。内腔の大きいものでまれに結晶が含まれていることがあ る。
 軸方向重組織はきわめて少なく、単独散在の柔組織に近いものが、道管の周縁を含めて基礎組織中に散在している。柔細胞の径は0.01~0.03mm、壁厚は0.001~0.002mmほどである。
 放射組織は1~4ときに5細胞層で、高さは種々であるが、長いものは80細胞高または以上となる。その構成は異性で、単列のものおよび多列のものの軸方向両端と多列部の中間にもある1~10層の単列部とは直立細胞または方形細胞の層、他の多列部は平 状細胞の層である。辺縁の直立細胞または方形細胞の中に菱形の結晶が多く存在し、ときに2個または以上の結晶が含まれ、またこれらの細胞は隔壁で上下に仕切りがあることも多い。平状細胞中にも結晶が含まれていることがある。細胞内に内容物が多 いが、シリカは見られない。  
32.マラスの材の性質と利用
)  材の気乾比重に0.60~1.06にわたる記載があるが、0.70~0.95の範囲のものが多い。生材から気乾までの収縮率は、接線方向4.6%、放射方向2.6%の例がある。強度値にいくつかの報告があるが、1例をあげると、気乾比重0.84のもので、縦圧縮強さ 723kg/c㎡、部分横圧縮比例限度は接線方向91kg/c㎡、縦引張強さ2022kg/c㎡、縦引張ヤング係数17.1×10(4)kg/c㎡、横引張強さは放射方向166kg/c㎡、接線方向93kg/c㎡、横引張ヤング係数は放射方向2.1×10(4)kg/c㎡、接線方向0.9×10(4)kg/c㎡、 曲げ強さ1411kg/c㎡、曲げヤング係数16.2×10(4)kg/c㎡、せん断強さは放射断面141kg/c㎡、衝撃曲げ吸収エネルギー0.99kg・m/c㎡、ブリネル硬さは接線断面4.3kg/m㎡を示す。
 材の化学的組成の例では、セルロース59%、ペントザン12%、リグニン35%、冷水抽出物1.4%、温水抽出物2.6%、アルコール・ベンゾール抽出物11.6%、1%NaOH抽出物13.6%、灰分2.1%である。
 製材は動力をやや多く要するが、比重の割合には容易がある。乾燥はやや困難で細かい割れが出やすい。人口乾燥では緩やかスケジュールが必要とされ、1例では、初期乾球温度45℃、初期乾湿球温度差2℃、終期乾球温度65~80℃、終期乾湿球温度差20 ℃が提示されている。鉋削その他の切削加工性は普通、やや悪いという評価があるが、仕上げ面はほぼ良好である。釘打ちで割れを防ぐために前穿孔が必要とされるが、釘の保持力は大きい。接着はユリア樹脂接着剤、レゾルシノール樹脂接着剤、オレフ ィン系接着剤では中位以上であるが、酢酸ビニル樹脂エマルジョン接着剤ではあまり良くない。塗装では板目材で塗膜割れが出ることがあるとの報告である。単板切削は困難であるが、一応合板に製造することは可能である。パーティクルボード製造では 小片切削でのナイフの摩耗が大きく、ハードボードでは製品の品質が良くない。パルプでは収率が比較的少なく、漂白性、強度に難点がある。心材または濃色部分は接地・外気条件での耐朽性および白蟻・ヒラタキクイムシに対する抵抗性がある。海虫に 対してもかなり抵抗性があるとの評価が多いが、また反対の結果の報告もある。
 この樹の分布はきわめて広く、地方的にそれぞれ利用されているが、市場材としてまとまって出材されるところは少ない。かつてフィリピンではaranga材の代表的供給源であった。現在はパプア・ニューギニア地域、とくにビスマーク諸島(ニューブリ テンおよびニューアイルランド)で量的に多く出材され、わが国にもかなり多く輸出された時期がある。一般的に用途をあげると、重構造物、建築構造材、とくにフローリング・窓枠などの建築造作・内装材、家具・キャビネット、仏壇、箱・パレットな どの包装材、農機具・工具の柄などを含む器具・機械部材、枕木・橋梁・柵柱・埠頭用材などの土木材、とくに現地での埠頭の敷板・ダンネージ・海水中のパイリング、車両材、船舶材、運動具、施削・彫刻による工芸品その他、また現地の櫛、日本へ輸 出される箸などがある。
33.Homalium kunstleri KING
 Homalium kunstleri KINGはマレー半島の石灰岩地に稀産する。高さ6~14mの高木で、若枝は無毛である。葉は長楕円形などで長さ11~18cm、幅6~8cm、短鋭尖頭で鈍端、基部は楔形ないし円形を示す。厚い革質で疎らな鈍鋸歯があり、中肋は下面できわめて顕著、側脉は8~9 対、無毛で上面は光沢があり、下面は灰白色を呈する。葉柄の長さは4~6mmで太い。総状花序は穂状様で単出し、葉とほぼ同長、花序軸に細綿毛を布く。苞葉は卵形または円形で径は3mm、残存性である。花は花序軸に沿って間隔をおいて3~4個ずつが束 出し、6数性で、淡黄緑色を呈する。がく筒部は広い漏斗形で長さ2mm、がく裂片は倒皮針形、鈍頭、長さ2mm、花弁は広皮針形でやや鈍頭、長さ2mmで、これらすべてに灰色の細綿毛を密布する。雄ずいは各花弁の前に2個ずつがつき、無毛である。子房は 細綿毛を被むり、花柱は5個である。  
34.Homalium spathulatum RIDLEY
 Homalium spathulatum RIDLEYはマレー半島に稀産する高木である。葉は楕円形で長さ9~11cm、幅3~4cm、鈍端の鋭尖頭、基部は楔形を示す。薄い革質で、全縁または波状縁、側脉は7対はどありきわめて細微で、網脉とともにやや不明瞭である。無毛で光沢がある。葉柄の 長さは4~5mmである。
 穂状様の総状花序は多くは単出で長さ6~8cm、花序軸に細綿毛を布く。花はほとんど無柄で、10数性である。がく筒部は長さ2.5㎜で細綿毛があり、がく裂片は狭線形で長さ約2.5㎜、やや伏生毛を密布する。花弁は線状へら形で長さ約3mm、開出毛をも つ。雄ずいは各花弁の前に多くは3個ずつ、まれに同一花内でも2個ずつがつく。花盤腺体は円くやや扁平で細軟毛を密布する。花柱は3個あって無毛である。  
35.Homalium moultonii MERRILL
 Homalium moultonii MERRILLはボルネオのサラワクに稀に生ずる小高木である。若枝は無毛である。葉は卵状長楕円形などで長さ7~12cm、幅3~5.5cm、やや鋭頭、基部は楔形ないし円形を示す。革質で、全縁または疎らに不明瞭な牙歯があり、側脉は7~8対あって、密 な網脉とともに両面で顕著である。無毛で光沢がある。葉柄の長さは5~7mmである。
 花部の構造はこの属のうちでは特異である。総状花序は単出し長さ10~18cm、細く湾曲し、花序軸に黄色または灰色の伏生軟毛を生ずる。花は軸に沿って単出して疎らにつき、小花柄の長さは0.5mm、苞葉はきわめて微小で残存性である。花は10数性で ある。がく筒部は狭い漏斗形で長さ5mmほど、灰色の細軟毛を布く。がく裂片は線形で長さ約2mm、鋭頭で細軟毛がある。花弁はがく裂片と同様であるが下方が僅かに幅が広く、あるものは長さ3mmまである。雄ずいは約20個あり、融合してほとんど子房を 覆っていて細軟毛を布く花盤腺体の中に不規則に挿入されてついている。花弁の長さは約1mmで無毛である。子房は円錐形で短く細軟毛を被むり、花柱は3~4個で短く無毛である。  
36.Homalium panayanum F.-VILLAR
 Homalium panayanum F.-VILLAR(異名Homalium myrianthum BAKER、Homalium subscandens ELMER、Homalium obovatum MERRILL)はボルネオのサバとフィリピンに生じ、サバでmalaban、kaninium、panawan、フィリピンでampupuyot、kandong、puyotという。
 高さ25mまでの低木ないし小高木である。葉は楕円状倒卵形などで長さ4~12cm、幅3~5cm、鈍端の広い鋭頭ないし円頭に近く、基部は楔形を示す。やや革質で、全縁ないし浅い鈍鋸歯があり、側脉は6~8対、下面で網脉が明瞭、無毛で上面は光沢があり 下面では鈍くなる。葉柄の長さは3~8mmである。
 円錐花序は長さ4~12cmで、基部近くから分枝し、花序軸に灰色の細軟毛を布く。花は軸に沿って単出し、小花柄の長さは約2.5mmで細い。苞葉はへら形で長さ1mmである。花は6~7数性で、白色を呈する。がく筒部は短くてやや幅が狭く長さ1.8mmで 列毛がある。がく裂片は線形で長さ1.5~1.8mm、やや鋭頭、開出毛を密布する。花弁はがく裂片と同様であるが幅が広く、がく裂片とともに果時には長さ3mmまでに増大する。雄ずいは各花弁の前に1個ずつがつく。花柱は4個あり、ほとんど先端まで有毛 である。
 材はマラスarangaHomalium foetidum BENTHAMと同様で、建築、器具その他に用いられるが、樹が小さいのであまり有用でない。  
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