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平井信二先生の樹木、木材研究

メルサワ属の樹木(その3)
10.Anisoptera grossivenia V.SLOOTEN
 Anisoptera grossivenia V.SLOOTENはSect.Anisopteraに属する。ボルネオ固有でサバでpengiran kunyit、pengiran kasar、サラワクでmersawa kunyit、merakunyit(この名はAnisoptera marginata KORTHALSの方に多く用いられる)、ブルネイでbenchaloi、merbakau、インドネシアでmersawa kenjauという。
 高さ60m、直径1.5mほどまでになる大高木である。樹幹は直通でふつう枝下高は大きい。樹皮は紫褐色で縦の裂け目が密に入り裂け目の間の平坦部はフレーク状になって剥げ落ち、その部分が斑点になって見える。板根はほとんど出ないという記載とか なり大きいという記載とがある。葉は長楕円形、狭倒卵形などで長さ8~16cm、幅2.5~5cm、先端はやや急に狭まって鋭尖頭となり基部は楔形~円形、側脉は18~28対あって密接し側脉をつなぐ網状の細脉は顕著である。下面は金黄色の鱗状毛を密布する 。円錐花序は頂生または腋生し長さ20cmまでで2回分岐、小分枝は疎で長さ5cmまで、8個までの花をつける。花弁は最初深紅色であるが開ききると深黄色となる。皮針形で鋭頭。雄ずいは36個ほどあって葯は球形に近く葯隔の付属体は葯の長さの約3倍ある 。雌ずいの子房の上につく足体は円筒形に近く先の方がやや狭まり金褐色のビロード毛がある。花柱は短く無毛。果実はほぼ球形で径1.3~1.8cm、頂端にやや尖った長楕円状卵形の足体をつける。果実の萼は新鮮時は帯紫色で乾くと紫褐色となる。2個の 長裂片は狭いへら形で長さ8~20cm、鈍頂、まれに鋭頭、3個の短裂片は長さに変化がありふつう線形で長さ2cmほどであるが長さ6cmまでになるものがある。
 サラワクとブルネイでは量的に多い種類であるが、材色が鈍黄色でよくないことと虫害を受け易いことであまり良材とは考えられていない。材の気乾比重の値にはサバ産で0.75(0.71~0.79)、インドネシア産で0.73(0.65~0.85)の記載がある。
11.Anisoptera marginata KORTHALSの概要
 Anisoptera marginata KORTHALSSect.Anisopteraに属する。マレー、スマトラ、バンカ、ボルネオに分布し、泥炭湿地林に生育することが多い。サラワク産で記載されたAnisoptera grandiflora BRANDISはその異名とされる。マレーでmersawa paya、sanai、サバでpengiran kerangas、サラワクでmerakunyit、ブルネイでmersawa paya、belait、punram、インドネシアで、mersawa tenamperapat hutanなどという。
 高さ45m、直径1.6mまでになる中~大高木で、樹幹はふつう通直、樹皮は灰褐色で縦の浅い裂け目がありフレーク状になって剥げる。板根は高さ3mまであがる。葉は長楕円形などで長さ7~15cm、幅2.5~7cm、先端は短い凸頭となり基部は広楔形~鈍形、 側脉は10~16対で下面に金褐色の鱗状毛を密に布く。側脉をつなぐ細脉は網状を呈して著しい。葉柄の長さは0.5~2cmである。頂生または腋生する円錐花序は長さ5~15cmで下垂し不規則に2回分岐する。花弁は淡黄色で広い楕円形、長さ約6mmで縁毛があ る。雄ずいは約25個あって花糸は短く細い。葯は長楕円形で葯隔の付属体は葯の長さの2倍ほどである。雌ずいの足体は円柱状で子房とともに密に短いビロード毛を布く。その上に3岐した短い無毛の花柱がつく。果実は球形に近く径約1.5cm、上端に長さ 約3mm、径1.5mmの足体をのせる。萼の2個の長裂片はへら形、鈍頭で長さ10~13cm、3個の短裂片は線形、鋭頭で長さ1.5~2cmである。
12.Anisoptera marginata KORTHALSの材の組織と性質
 Anisoptera marginata KORTHALSの辺材は淡黄色、心材は黄褐色を示す。道管は単独で散在するものが多いがまた2~3個が各方向に接続するものもある。分布数5~7/mm2、径0.14~0.27mm、単せん孔でチロースはやや顕著。基礎組織の繊維状仮道管は径0.015~0.03mm、壁厚0.005 ~0.008mm。長さ1.7(1.6~1.8)mmという記載がある。軸方向柔組織は全体的に量が少ない。
 (1)周囲柔組織はきわめて薄く多くは不完全で0~2細胞層である。
 (2)垂直樹脂道を包む帯状柔組織はこの属の他種にくらべて明瞭で同心円弧状をなしている ものが多く、放射方向に4~8細胞層ある。
 (3)短接線柔組織は接線方向に2~6細胞連なり放射方向に1~3細胞層である。単独で散在する柔細胞は比較的少ない。垂直樹脂道は帯状柔組織中にあって同心円弧状に配列し各々が比較的近接する。分布数0~4/m m2、径はやや大きく0.1~0.14mmである。放射組織は単列がきわめて少なくほとんどが6細胞幅までの多列でそのうちでも5~6細胞幅のものが多い。高さは4細胞高からあるが一般に高く90細胞高まである。構成は異性で単列のもの、多列のものの上下両端1 ~4層の単列部、ときにそれにつづく2列部、周縁の鞘状部は直立細胞、方形細胞または高さがやや大きく放射方向の長さが短い大形の平伏細胞からなり、多列部の内部は小形で放射方向の長さが長い通常の平伏細胞からなる。細胞内の含有物は少ない。
 材質数値の例をあげる。マレー産のもので生材から全乾までの全収縮率は接線方向12.5%、放射方向3.9%、縦圧縮強さ291kg/cm2、曲げ強さ569kg/cm2、曲げヤング係数11.1×10(4)kg/cm2、せん断強さ62~92kg/cm2、インドネシア産のもので気乾比重0.59 、全収縮率は接線方向7.6%、放射方向3.7%、縦圧縮強さ370kg/cm2、曲げ強さ675kg/cm2、せん断強さ59~63kg/cm2であるが、これらのうち強度数値はやや低く出ているのではないかと思われる。他に気乾比重の報告にマレー産で0.62(0.56~0.72)、サバ 産で0.61、サラワク産で0.69(0.67~0.70)および0.69(0.64~0.74)、インドネシア産で0.64(0.52~0.74)がある。マレーで接地条件での耐朽性試験によると、この材は不良であり、防腐剤注入も困難との結果が得られている。
13.Anisoptera megistocarpa V.SLOOTEN
 Anisoptera megistocarpa V.SLOOTENSept.Anisopteraに属する。産地はタイ、マレーであるが多分スマトラにも分布するものと考えられている。マレーでmersawamerah、mersawa api、sepah petriといい、和名にアカメルサワがあてられている。直径がときに1.2mに達する大高木で灰色の樹皮に裂け目が現われ、板根ができる。葉は長楕円形などで長さはときに22.5cmまでになるが平均して約15cm、側脉は約30対、上面で脉理が凹んでよく目立ち 、下面にはざらつく毛があって紅褐色を呈し遠くからでも樹冠全体が暗紅褐色に見える。花弁は黄白色で卵状皮針形、雄ずいは約50個、雌ずいの足体は楕円状卵形で上端は花柱に向って狭まる。果実の径は約1.8cmで萼裂片のうち2個は長さ20cmまでの翅に なり、3個の短裂片は長さ3.8cmまでである。
14.Anisoptera polyandra BLUMEその他
 Anisoptera polyandra BLUMEはニューギニアおよびモルッカ産で、筆者の手許の文献では所属の節は不明である。ニューギニアにgarawaの地方名があるが、木材の取引名はanisopteraとされている。ニューギニア産のこの属の主な種類であり、ニューギニア東部にはかなり量が多 いといわれる。大高木で葉は卵形または卵状長楕円形。果実の萼筒部は鐘形を呈し萼裂片の外側の2個は大きな翅になりその3縦脉のうちの1個は縁に近接している。内側の3個の短裂片はきわめて小さい。
 辺材は淡黄色、心材は淡黄褐色~黄褐色で淡紅色ないし紫紅色の縞がある。木理は少し交走し肌目はやや粗い。材の組織について古野毅氏の記載があるのでその要点を摘記する。道管は散在しほとんど単独、まれに放射方向に2個が接続する。分布数6~ 8/mm2で接線方向の径は0.19(0.14~0.25)mm、単せん孔でチロースが認められる。管孔の周囲に道管状仮道管が存在する。繊維状仮道管は壁厚がきわめて厚い。軸方向柔組織では周囲柔組織の発達が悪く、垂直樹脂道を囲む柔組織が存在し、また独立型の 柔細胞が散在しておりときに短接線柔組織の形になる。柔細胞中にシリカが認められるが多くない。垂直樹脂道は散在し径は道管にくらべてかなり小さい。放射組織は単列のものは3~25細胞高、多列のものは2~6細胞幅で120細胞高まであるが高いものが 多い。構成は異性。細胞中にシリカを含むことがきわめて多い。
 材質数値の例をあげると、気乾比重0.64、生材から気乾までの収縮率は接線方向3.5~7.8%、放射方向0.8~3.6%、縦圧縮強さ450kg/cm2、曲げ強さ805kg/cm2、曲げヤング係数13.5×10(4)kg/cm2、せん断強さ75~121kg/cm2がある。
 耐朽性はやや低いが、海虫に対しては5年以上もっていたという結果がある。防腐剤の注入は困難である。用途には軽構造材、建築内装造作材(窓枠、モールディング、フローリング、壁面材など)、車両、家具、器具、包装、合板(厚い合板のコアー 用)その他があげられる。
 ニューギニアにはこのほかAnisoptera kostermansiana DILMYがある。
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