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平井信二先生の樹木、木材研究

ユソウボク属の樹木
1.ユソウボク属の概要
 ユソウボクGuaiacumまたはGuajacumと綴ることがありハマビシZygophyllaceaeに属する。10種ほど記載されているがS.J.RECORD、R.W.HESS両氏によれば4種とするのが妥当のようである。その分布はアメリカのフロリダ州最南部の島岐フロリダキー、 西インド諸島、メキシコ南部のユカタン半島、コロンビア・ベネズエラ・ガイアナのカリブ海沿岸と、メキシコからパナマへかけての中米太平洋側の地域である。その代表的な種類はユソウボクGuiacum officinale LINNAEUSであるが、このもの、またあるいは他の種類も含めての世界に通じる一般名称としてlignum-vitaeがあり、また英名にguiac wood、pock wood、独名にGuajakholz、Pockholzがある。和名は癒瘡木の読みであるが木材関係ではリグムナバイタといっていることが多い。
 常緑の小~中高木で葉は対生する偶数羽状複葉で1~7対の小葉からなり、小葉はおおよそ楕円形、全縁、革質である。枝の先に散形花序を出して花をつける。萼片は5個、花弁は5個、雄ずいは10個、雌ずいは1個。果実は朔果で中に1~2個の種子をもっ ている。
 材は散孔材で辺材・心材の区別は明瞭、心材は暗褐色、帯緑黒褐色など、生長輪はふつう認められない。木理はときに著しく交走し肌目はきわめて緻密で油脂分を多く含んで蝋状光沢を呈する。材は世界中の用材のうちで最も重硬なものの代表とされる もので気乾比重1.10~1.41に至る。したがって機械の部材、器具材として特殊の用途があり、とくに船舶のスクリューの軸受用材として最もよく知られている。Lignum- vitae(生命の木)の由来はこの材に難病に対する特別な治癒力のある成分が含まれていると信じられたことによっている。14世紀以来かなり重要な貿易物資になって高価に取引されたのであるが、現在ではその効果は疑問とされこの用途はほとんどすた れてしまった。
 1992年3月京都で行われたワシントン条約会議(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する会議)で、アメリカ提案の西インド原産リグナムバイタを付属書Ⅱ(商業目的の国際取引は可能だが輸出許可書が必要なもの)に含めることが可決 された。  
2.ユソウボクの名称、分布と形態
 ユソウボク(一名リグナムバイタGuiacum officinale LINNAEUSは西インド諸島全域と南米のカリブ海沿岸に分布し、また中米地域にもあるといわれている。一般名はLignum-vitae、英名はguajac wood、pock wood、独名はGuajakholz、Pockholz、Franzosenholzなど、また英名で同属の多他種と区別してthin-sap lignum-vitae、プエルトリコでLignum sanctum、guayacan blanco、キューバでguayacan negro、guayacan preto、palo santo、ベネズエラでpalo santoなどという。
 常緑小~中高木で通常高さ5~10m、直径10~45cmであるがときに直径75cmに至るものがある。生長はきわめて遅い。樹冠は密で円形に近く、樹皮は淡褐色に灰白色と灰緑色の斑紋が現われ、平滑で薄い鱗片状になって剥げることが同属の他種との区別点 になっている。葉は対生し小葉2~3対からなる偶数羽状複葉、長さは3.8~7.5cmである。小葉は倒卵形、広楕円形などで先端は円形、基部は円形~鈍形、長さ1~3cm、小葉対の先のものほど大きい。全縁、革質、淡緑色でややツゲのような感じがあり下面 帯白色である。小枝の先に淡青色か青色の花を散形につける。やや香りがあり径約1.5cmで花弁は5個である。果実は扁平な朔果で倒心形、長さ2cmほどで熟して橙褐色になり裂開して1~2個の種子を放出する。種子の長さは約1.3cmである。
3.ユソウボクの材の組織
 散孔材。辺・心材の区別は明瞭で辺材は比較的幅が狭く帯黄灰白色、心材は暗黄褐色、暗褐色、帯緑黒褐色でやや濃淡の縞が見られるものが多い。生長輪は不明瞭でふつう認められないが、ときに道管孔の径が大きい早材様の部分と道管孔の径が小さい 晩材様の部分が層状にみられるものがある。木理は比較的狭い幅で著しく交走するものがあり、肌目はきわめて緻密、油脂を多く含むので材面に蝋状の感触と光沢がありまた芳香がある。材の顕微鏡構成要素の割合を測定した例をあげると道管13.6%、真 正木繊維75.0%、軸方向柔組織1.8%、放射組織10.0%である。横断面で見ると道管はほとんど単独でごく稀れに2個が接続し、分布は部分的に一様でなく分布数は0~35/m㎡の広い範囲にわたりふつう5~10/m㎡程度である。径も変化が多く0.03~0.15mm、 単せん孔、せん孔板は僅かに傾斜する。接続する道管相互間の有縁壁孔は交互配列をし径は約0.003mmで孔口は楕円形である。内腔に樹脂様物資を充満しているものが多い。真正木繊維は材の基礎組織を形成し長さ0.6(0.3~0.8)㎜、径0.008~0.015mm、壁 厚0.003~0.005mmで径隙比が小さい。軸方向柔組織のうち周囲柔組織は薄く管孔の周囲に断続して1細胞層程度、しばしば放射方向の片側にのみあって帽状になる。また僅かに翼状になって接線方向に3細胞までのびるものがあり、このものは放射方向に1~ 4細胞層である。短接線柔組織はふつう放射方向に1細胞層、接線方向に2~3細胞が連なり単独の散在柔細胞に移行する。柔細胞の径は0.01~0.02㎜、壁厚は0.001~0.0015㎜である。放射組織はほとんどが接線方向に単列のもので、まれに1部2列となり、1 ~4細胞高で2~3細胞高のものが多い。構成は平状細胞のみからなる同性である。これらの放射組織は軸方向で層階状に配列して、肉眼で材の板目面を見た場合に、リップルマーク(波状紋)として認められる。  
4.ユソウボクの材の性質と利用
 材はきわめて重硬である。Guaiacum officinale LINNAEUSと種名をあげて記載された気乾比重は1.10~1.33であるが平均して1.25程度と思われる。各種の強度的数値もこれに相応して高い。気乾比重1.23のものについて例をあげる。生材から全乾までの全収縮率は接線方向9.3%、放射方向5.6%、体積14. 3%、縦圧縮強さ1050kg/c㎡、横圧縮強さ900kg/c㎡、曲げ強さ1200kg/c㎡、曲げヤング係数12.2×10(4)kg/c㎡、衝撃曲げ吸収エネルギー0.33kg・m/c㎡、ブリネル硬さは横断面16.7kg/m㎡、縦断面14.8kg/m㎡、ヤンカ硬さは横断面1590kgがある。以上の数 値のうち衝撃値などは低すぎるのではないかと思われるもおがある。市場でLignumvitaeとしていっしょに扱われている同属の別種の材質と考えられる。以下に記述する加工的性質および利用もそれらを含めてのものである。
 材がきわめて重硬なことと交走木理が著しいため鋸断および切削加工は困難、とくに手工具による加工はきわめて困難であり、切削刃物に特別な工夫が必要である。ただし施削、型削りは比較的良好に行われ良い仕上げ面が得られる。乾燥はきわめて遅 く、さらに乾燥過程中の割れを防ぐため木口面の塗装その他の手段と周当な注意が必要とされている。含有油脂分に由来する接着不良を防ぐためにはサンディング、苛性ソーダ溶液での洗滌などの表面処理を行う。耐朽性・耐虫性はきわめて高くまた白蟻 、海中にも食害されない。
 大材がないので構築材などの利用はないが、世界中で機械材、器具材として他のものでは代替できない用途をもっている。とくに船舶のプロペラシャフトのベアリングとブッシング・ブロック、各種工業機会のベアリング、型材、滑車輪、ローラー、ハ ンドル、堅鋸機械のサッシュなどは材の摩擦の少ないことと含有油脂分による自己潤滑性能が利用されているものである。なおボーリングのボールにも用いられた。わが国にはほぼ恒常的に年間1500?程度が輸入されている。現在では真のユソウボクは少な くなっており、実際に市場に出ているものは後項に記載する同属の別種の方が多くなっているといわれている。  
5.グアヤック脂
 心材に20~25%も含まれている油脂はグアヤック脂で材片、チップあるいは鋸宵からアルコールまたはエーテル、ときに熱水で抽出して得られる。また生立木で滲出してものを採取することもある。その主成分はαーグアヤコン酸、βーグアヤコン酸、 グアヤレチン酸で、精油分にグアヤコール、グアイオールを含む。グアヤック脂またはチンキはかって梅毒の治療薬として使われた。グアイオールは酸化剤で酸化されると深藍色のグアヤズレンを生成するのでハロゲンガス、シアン化水素、オゾン、過酸 化水素、血尿(ヘモグロビン)などの検出に用いられる。  
6.その他のユソウボク属の樹木
 Guaiacum sanctum LINNAEUSはアメリカのフロリダキー、西インド諸島、メキシコのユカタン半島に産し一般名または取引名あるいは英名にLignum-vitaeのほかにBahama lignum-vitae、bastard lignum-vitaeがあり真のユソウボクと区別した英名thick- sap lignum-vitaeもある。スペイン語名では一般にpalo santoといい、そのほか現地名ではキューバでvera amarilla、vera prieto、ハイチでvera、フロリダでiron woodなどという。和名にバハマユソウボクが使われることがある。全体に小さく通常高さ10m、直径30cm以下であるがときにはかなりの大きさになるものがある。樹皮は緑白色で真のユソウボクのような斑紋が出ない。小葉は長楕円形。辺材の幅が広く心 材の割合が少ない。組織では放射組織の高さが大きく3~6細胞高である。材質は一般に真のユソウボクより劣るものとされ、1例では気乾比重1.09、縦圧縮強さ798kg/c㎡、ヤンカ硬さ縦断面で2025kgの報告がある。
Guaiacum guatemalense PLANCHONは中米の太平洋岸地域の産であるが、前記のバハマユソウボクと同一種とする考えもある。一般にLignumvitaeとして扱われるほか、真のユソウボクと区別しての取引名または英名はNicaraguan lignum- vitaeであり中米諸国の現地名はguayacanという。樹は大きく従って比較的大きい丸太が出材される。通常長さ12~24m、直径23~60cmで最大のものの記録に長さ27m、直径90cmがある。一般に円柱状、通直で欠点が少ない。樹皮は暗灰色で不規則なフレー ク状になる。
 Guaiacum coulteri A.GRAYは異名にGuaiacum palmeri VAHL、Guaiacum planchoni A.GRAYがある。メキシコの太平洋岸地域SonoraからOaxaca(オアハカ)にわたって産し、メキシコ現地名をarbol santo、guayacan、palo santoなどという。高さ7.5~10m、直径40~70cmになる小高木で枝は屈曲し斑状にはげる樹皮をもつ。材は重硬で耐朽性が高いので現地で構造材および熱材に用いられるが、輸出する市場材となることは少ない。 平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る