v2.3

平井信二先生の樹木、木材研究

クロモジ
1.クロモジの1群
 クロモジといわれているものはクスノキLauraceaeで、植物学上は2・3の種を含むのが普通であるが、一般には区別して扱われることはほとんどなく、一括してクロモジとされている。とくに方言名、利用、文芸などの場合は区別が見られない。ここ では植物学的な区分は次のように扱っておく。
 クロモジLindera umbellata THUNBERG、同変種オオバクロモジLindera umbellata THUNBERG var.membranacea MOMIYAMAヒメクロモジLindera umbellata THUNBERG var.lancea MOMIYAMAケクロモジLindera sericea BLUME、同変種ウスゲクロモジLindera sericea BLUME var.glabrata BLUME。  
2.クロモジの名称と方言名
 クロモジの漢字は黒文字で、そのことについては2つの説がある。黄緑色の小枝に黒の斑紋があるのを黒い文字と見たというのが有力であるが、またその斑紋から樹をクロ(木)というのにカモジ、オ目モジなどと同様に女房言葉のモジがついたという 説である。
 クロモジの方言名はきわめて多い。これらは前節にあげたクロモジ1群を細かく分けずにすべて含めてのものである。多少呼称の系統を分けてみると次のようである。まずクロモジ系とクロモンジャということが多く全国にわたっている。単にモンジャと いう系統は東北から新潟県にみられる。トリキ系、すなわちトリシバ、トリキシバなども東北、新潟県で、その由来は鷹狩りでとった小鳥を贈るときにクロモジの枝を添えることによるとの説と、小鳥を採るのにモチをつけた枝にクロモジを使ったとの説 がある。モチノキ(山形県)、モチヤナギ(兵庫県)にも上記トリモチノキの意と、小正月の餅花をつける樹の意という解釈がある。フクギ(中国)は餅花の樹の意と思われる。ヨウジノキ(東北、関東、長野・静岡県)は小楊枝に使うことから、アブラ ギ(高知県)は枝葉、果実から油をとることから、ショウガノキ(熊本県)は枝葉の香りからの名と考えられる。そのほかにもアキウリ(山梨県)、ホソキ(鹿児島県)などいろいろな呼称がある。  
3.狭義のクロモジの形態と分布
 クロモジ、一名コバノクロモジの学名はLindera umbellata THUNBERGを用いておくが、またBenzoin umbellatum O.KUNTZEが使われることも少なくない。そのほか異名にLindera hypoleuca MAXIMOWICZ、Benzoin thunbergii SIEBOLD et ZUCCARINIなどがある。
 高さ5mまで、直径6~10cmになる落葉低木から小高木で、樹皮は平滑で、灰褐色~緑黒色、円形または縦にのびた皮目がある。小枝は黄緑色で皮目はほとんどなく、ふつう黒い斑紋があって折れば香気が出る。若枝に絹毛を布くがすぐ無毛となる。頂芽 は形成される。葉は互生する単葉で枝先に集まってつく。長楕円形、倒卵状長楕円形、倒皮針形などで長さ4~10cm、幅1.5~3.5cm、短鋭尖頭~鋭頭、基部は楔形、全縁で羽状脉、側脉はは4~6対ある。薄目の洋紙質で、上面はほとんど無毛、下面は淡緑色 から帯白色で、初め長い絹毛があるがすぐにはぼ無毛となり、主脉上に多少毛が残ることがある。葉柄の長さは7~12mmで軟毛を散生する。
 4月に開花し、枝先に小さい新葉が数片集まって立ちその直下に1~4個の散形花序がぶら下がる。雌雄異株で、雄花序は10~13花からなり、花序柄は3~6mm、花柄は約6mmで絹毛を密生する。花被片は6個が2輪に配列し円形から楕円形、長さ約3mm、淡黄 緑色、やや淡褐色を帯びる。雄ずいは9個が3個ずつ3輪に並び葯は2室で内向、2弁で開く。最内側の雄ずいの基部左右に黄色で有柄の腺体をつける。退化雌ずい1個は小さく長さ約0.8mmである。雌花序は5~12花からなり、雄花より少し小さい。花被片6個 、退化雄ずい9個は3輪に配列し葯がなく、最内輪3個は腺体をもつ。雌ずい1個で長さ約1.8mm、子房は楕円形で花柱は長く、柱頭は楯状にひろがる。9~10月に液果が黒色に熟し、球形で径は5~6mm、果柄は10~27mmで先端は太くなる。中に種子1個を含む 。ほぼ関東以西の本州、四国に分布し、山野にふつうに見られる。  
4.オオバクロモジ、ヒメクロモジの形態と分布
 オオバクロモジLindera umbellata THUNBERG var.membranacea MOMIYAMAは前節コバノクロモジの変種とする説に従ったが、その分布が異なることを重視して亜種とする考えも有力である。また母種との形態の違いが移行的で明確に判別できぬ場合があるので全く区別しない考えもあり、かっては別種とされたこともあ る。次の異名があげられる。Lindera umbellata THUNBERG subsp.membranacea KITAMURA、Lindera membranacea MAXIMOWICZ、Benzoin membranaceum O.KUNTZE
 母種コバノクロモジにくらべて葉は大きく、長楕円形で長さ8~15cm、下面に脉理がより明瞭に見られ、葉柄の長さは10~20mmである。分布はおおよそ日本海型で、北海道(渡島)、東北、北陸、関東北部、山陰に多く、本州のその他では深山地域に見 られる。その分布状態から森林植生としてのブナ林の区分にブナークロモジ群集(近畿、山陰を除く中国の山地)、ブナーオオバクロモジ群集(渡島、東北、北陸の山地)の名称が用いられている。
 ヒメクロモジLindera umbellata THUNBERG var.lancea MOMIYAMAはまた別種とする説があり、その場合はLindera lancea M.KOYAMAの学名が用いられている。葉は細く狭長楕円形で長さ6~8cm、鋭尖頭、下面の粉白が強く、葉柄の長さ6~8mmである。本州(静岡・愛知・岐阜県、紀伊半島)、四国に分布する。  
6.ケクロモジ・ウスゲクロモジの形態と分布
 ケクロモジ、一名オオバケクロモジの学名はLindera sericea BLUMEで、Benzoin sericeum SEBOLD et ZUCCARINI、Lindera umbellata THUNBERG var.sericea MAKINO、Benzoin umbellatum O.KUNTZE var.sericeum REHDERはその異名である。
 高さ3mまでの落葉低木。葉は狭倒卵形、倒卵形、長楕円形などで長さ6~17cm、鋭尖頭~鋭頭、基部は楔形、側脉は5~10対、上面に短毛を密生し下面は脉理が隆起して明瞭であり、ねた長軟毛を密布する。散形花序は2~3個がつき、1花序は5~8個の花 からなり、花序柄より花柄が長く密毛がある。液果の径は6~7mmで果柄の長さは1~3mmある。本州(和歌山・兵庫県以西)、四国、九州、朝鮮南部に分布する。
 ウスゲクロモジ、一名ミヤマクロモジ、ウスバクロモジの学名はLindera sericea BLUME var.glabrata BLUMEで、異名にBenzoin sericeum SIEBOLD et ZUCCARINI var.tenue NAKAI、Lindera sericea BLUME var.tenuis MOMIYAMA、Lindera subsericea MAKINOなどがある。葉は薄質で、下面は帯白色、軟毛を散生する。花期は5月で遅い。分布は本州(関東以西)、四国、九州、支那中部で、母種のケクロモジよりもこの方が普通にみられる。オオバクロモジとしばしば混同されている。  
7.クロモジの材の組織
 クロモジは散孔材で、辺心材の違いが認めにくく灰白色、淡黄白色などを呈する。年輪は認められるがやや不明瞭である。肌目は精。
 材の顕微鏡的な構成要素は道管、真正木繊維、軸方向柔組織と放射組織とである。道管は単独およびおもに放射方向に2~3個、ときに6個までが接続し、分布数は50~90/mm2を示す。単独道管の横断面形は広楕円形~楕円形、径は0.03~0.1mm、春材から 夏材に向け径が減少する。せん孔板は傾斜し単せん孔、ときに階段せん孔をもつ。基礎組織を構成するのは真正木繊維で、径は0.01~0.025mm、壁厚は0.003~0.005mmである。軸方向柔組織はその材占有割合が少なく、周囲柔組織は薄くて0~1細胞層、とき に2細胞層、ターミナル柔組織が存在しおおよそ1細胞層、ときに0または2細胞層、ほかに僅かに散在柔細胞がある。柔細胞の径は0.01~0.03mm、壁厚は0.001~0.002mmである。放射組織は1~3、まれに4細胞幅、4~40細胞高。その構成は異性で、単列のも のおよび多列のものの上下両端1~2層の単列部は方形細胞、ときにやや直立細胞となる傾向を呈し、他は平伏細胞からなっている。使用した標本では分泌巨細胞は認められなかった。  
8.クロモジの材の性質と利用
 材の気乾比重に0.85と報告されたものがある。おおよそ中庸ないし堅硬な材と思われる。
 クロモジがよく知られているのはふつう皮つきの香ばしい小楊枝(こようじ)(妻楊枝)であって、また和菓子には太目で大きい平楊枝も用いられる。そのほかの材の一般的な利用は燃材以外は小細工物程度であり、特殊なものでは枝を柴垣の材料にし たり、山村でかんじきや物を縛るねそに利用された。
 枝葉を水蒸気蒸溜して得られる黒文字油はかっては国産精油のおもなものの1つであって、明治時代に伊豆で工業生産されたことがある。精油にはリナロール、ゲラニオール、フェランズレンその他を含み、香粧料、整髪料、石けん香料などの原料となっ た。果実からも種子油が得られ灯用とされた。なお樹は風情があるので庭木、生垣に用いられる。
 文芸でもその名がでることがある。
 「枯れ山に花先んじて黄に咲ける黒文字の枝折ればにほひぬ」(中村憲吉)「くろもじの花球(たま)となる霧雫( しずく)」(新井盛治)。 平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る