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平井信二先生の樹木、木材研究

バチカ属の樹木(その7)

42.Vatica mangachapoi BLANCOの概要
 Vatica mangachapoi BLANCOSect.Sunapteaに属し、タイ半島部、支那南部、インドシナ、マレー、ボルネオ北部、フィリピンに分布する。中国で青梅、青皮、海梅、マレー・ブルネイでresak julong、サバでresak bajau、フィリピンでnarig、mangachapoi、anigaなどという。
 これを次の2亜種にわけることが行われる。Vatica mangachapoi BLANCO subsp.mangachapoiは基本のもので分布の全域にわたり、Vatica mangachapoi BLANCO subsp.obtusifolia ASHTON(異名Vatica obtusifolia ELMER)はサバとフィリピンの1部に局限されて出現し少ない。フィリピン名をParawan narigという。
 一般に小~中高木であるが、この属では大きくなるものの方で、高さ30m、直径70cmまでとなる。枝は割合低い処からわかれ、樹幹は円柱状であるが、時に溝がある。樹皮は灰黒色を呈しほぼ平滑である。板根は小さい。葉は長楕円形などで長さ5~1 3cm、幅2~6cm、側脉は7~12対あってこれらをつなぐ細かい網状の脉理が著しい。ほとんど無毛で、葉柄の長さは1.5cmまでである。
 長さ4~11cmの円錐花序に花をつけ、花弁は白色であるが時に淡黄色、淡紅色を帯び、外面に密毛を布き内面は無毛である。花に芳香がある。堅果はほぼ球形で径は0.6cmまで、これを囲むがく裂片のうち2個は長く3~5.5cmのへら形の翅になり、3個は小 さく長さは約1.5cmまでである。これらは基部から離生している。  
43.Vatica mangachapoi BLANCOの材の組織
 散孔材。辺心材の境はほぼ明瞭で、辺材は比較的厚く幅10cmになるものがある。心材は黄褐色などで時に緑色などのくもりがある。木理は通直かまたは僅かに交走し肌目は精である。
 材の顕微鏡的構成要素とこれらが材を構成する割合を測定した1例をあげると次のようである。道管21.6%、繊維状仮道管49.4%、軸方向柔組織15.6%、垂直樹脂道0.4%、放射組織13.0%。なお稀に微量の道管状仮道管がある。
 道管はほとんど単独であるが時に2個が各方向に接続し分布数は10~35/mm2を示す。単独道管の横断面形は円形、広楕円形、卵形で径は約0.05~0.15mm、せん孔板はやや傾斜するものから水平に近いものがあり、単せん孔である。一般にチロースが多く 含まれている。道管状仮道管は道管の周辺に稀に見られるに過ぎない。材の基礎組織を形成するのは繊維状仮道管で、長さ1.8(0.7~2.35)mm、径0.015~0.03mm、壁厚0.004~0.008mmである。
 軸方向柔組織では周囲柔組織は薄くて0~3細胞層であり、横断面で見て道管の放射方向片側について帽状をなす傾向が多く、翼状柔組織になるものはほとんどない。短接線柔組織は顕著でなく接線方向に2~5細胞連なり放射方向にはほとんど1細胞層時に 2細胞層、また単独の散在柔細胞に移行する。垂直樹脂道を包む柔組織は1~3細胞層で翼状にならない。柔細胞の径は0.015~0.035mm、壁厚は0.001~0.0015mmである。垂直樹脂道はほとんど単独で散在し、時に2個が接線方向に接続するものがある。分布数 は、2~6/mm2で径は0.025~0.05mmである。
 放射組織は1細胞幅のものと2~5(~7)細胞幅の多列のものの2空にややわかれる傾向がある。単列のものは1~15細胞高、多列のものは8~70細胞高を示す。その構成は異性で、単列型はおおよそ大型の直立細胞または方形細胞で構成されるが中 間に小型の平伏細胞層をはさみ、多列型では上下両端単列部および周縁の1部は直立細胞、方型細胞または高さの高い大型の平伏細胞の層、その他は小型の平伏細胞の層からなっている。構成細胞の中には樹脂様物質、結晶を含むものが見られる。
44.Vatica mangachapoi BLANCOの材の性質と利用
 材は重硬ないしきわめて重硬で、気乾比重に0.69~1.18の範囲の値が報告されているが0.95程度が多いと思われる。材質数値の1例をあげると、生材から全乾までの全収縮率は接線方向8.3~9.6%、放射方向3.9~4.8%、縦圧縮強さ612~633kg/cm2、曲げ強 さ1,254~1,366kg/cm2、曲げヤング係数16.4~17.7×10(4)・kg/cm2がある。材の強度は大きく心材の耐朽性は高い。
 材はフィリピンではnarigとして知られており、マレーシア地域でもresakとして扱われる。強度大で耐朽性が高いことから現地では各種の用途に広く用いられる。すなわち家屋建築、橋梁・枕などの土木材、車両、器具、農機具、船の部材と用具、電柱 などで、紡績用シャットル・ボビンなどの工業用品、工芸品に使われる場合もある。  
45.Vatica pachyphylla MERRILL
 Vatica pachyphylla MERRILLSect.Sunapteaに属し、フィリピン産で、thick-leaved narig、manapo、dadiangaoなどという。
 中高木で高さ30m、直径60cmまでになる。樹幹は通直で板根はきわめて小さい。葉は楕円形などで長さ7~15cm、幅3~7.5cm、側脉は10~12対あって、厚い革質、下面の脉上に短毛を布く。葉柄の長さは0.2~2.5cmである。花序は長さ7cmまで。果実 は広卵形から球形に近く長さ0.8cmまであり、がく裂片のうち2個は翅になって長く、3個は短い。これらは基部まで離生する。
 材はやや重く気乾比重に0.83~0.87の記載がある。家屋建築、船舶、橋梁など強度と耐朽性が要る処に用いられる。  
46.Vatica flavovirens VAN SLOOTEN
 Vatica flavovirens VAN SLOOTENSect.Sunapteaに属し、セレベス産で、hulodiri puteh、hulodiri motaha、awalasaという。
 中高木から大高木になり、大きいものは高さ40mに達する。葉は狭楕円形~皮針形で長さ8~21cm、幅2~7cm、側脉は12~14対あってほとんど無毛、葉柄の長さは1.3~2.5cmである。花序の長さは14cmまで。果実は球形に近く長さ0.7cmまでである。
 これを囲むがく裂片のうち2個は長く、3個は短く、これらは基部まで離生する。
 材の気乾比重は0.95~1.06で、resakとして扱われる。  
.47.Vatica rassak BLUMEの概要
 Vatica rassak BLUMESect.Vaticaに属し、ボルネオ、セレベス、モルッカ、ニュー・ギニア、フィリピンと東方まで広く分布する唯一の種類である、またこの属のほとんどの種類が丘陵地に生育しているが、この種類だけはマングローブ林の背後などの低地に生じ、果 実の果皮が厚く海流に運ばれて繁殖する。Vatica papuana DYER、Vatica moluccana BURCK、Vatica celebensis BRANDISはその異名である。地方名はサバでresak irian、resak danau、resak ayer、カリマンタンでresak danau、セレベスでdamar derah、モルッカでdamar hiru、イリアン・ジャヤでdemar hiru、laguna、フィリピンでtawi-tawi narigという。パプア・ニューギニアで材はvaticaの名で扱われる。
 中高木から大高木であるが、バチカ属最大のものの1つで大きいものは高さ40m、直径65cmまでとなる。樹幹は円柱状でふつう通直、枝下高22mまでのものがあり、基部近くで溝が出る。板根は低いかまたはほとんど現れない。樹皮は灰褐色などでほぼ平 滑である。葉は長楕円形~楕円形で大きく長さ13~43cm、幅5~12cm、側脉は10~20対あり、少数または多数の中間側脉が出る。厚い革質で下面脉上に短毛を疎生する。葉柄の長さは2~2.5cmである。
 花序は不規則に分岐し長さ14cmまで、花弁は淡黄色を呈する。堅果は長楕円形~卵形で大きく長さ4~6cmある。果皮は厚く、細かいコルク質のいぼ状突起をもつ。がく裂片5個はほぼ同形で楕円形~3角形、長さ1.2cmまでで果実より短く反曲する。  
48.Vatica rassak BLUMEの材の組織
 おもに古野毅氏のパプア・ニューギニア産材についての記述に従って組織の概要を記す。散孔材。心材は褐色~濃褐色で、木理は少し交走し肌目はやや精である。道管には単独で散在するものと放射方向または接線方向に2~3個接続、時に3~4個塊状に 接続するものとがある。分布数は大きく37~41/mm2。道管の接線方向の径は0.085(0.06~0.11)mm、単せん孔、接続する道管相互間の側壁の有縁壁孔は対列状ないし階段状でベスチャード壁孔がある。チロースは顕著である。材の基礎組織を形成する のは繊維状仮道管で、長さ1.7(0.9~2.3)mm、厚壁である。
 軸方向柔組織では周囲柔組織は完全に道管をとり囲むものが少ない。ほかに単独で散在する柔細胞と、時に短接線柔組織があり、また垂直樹脂道をとり囲む柔組織がある。柔細胞の中には濃色の内容物が見られる。垂直樹脂道は単独で散在し、その径は 道管にくらべてかなり小さい。
 放射組織は単列のものと多列のものの2型にわかれる傾向があり、単列のものは2~18細胞高、多列のものは2~8細胞幅で時に120細胞高を越える。構成は異性で、単列部および多列のものの周縁の多くは直立細胞、方形細胞または大型の平伏細胞の層、 他は小型の平伏細胞の層からなっている。  
49.Vatica rassak BLUMEの材の性質と利用
 材はバチカ属のうちでは軽快な方に入るが、resakとして扱われる。その気乾比重には0.49~0.89の範囲の報告があるが、0.60~0.70程度が多いと思われる。材質数値では生材から全乾に至る全収縮率は接線方向5.0%、放射方向3.3%、縦圧縮強さ425~ 650kg/cm2、曲げ強さ728~1,100kg/cm2の記載がある。材はやや脆いといわれ、耐朽性はあまり高い方ではない。
 パプア・ニューギニアからvaticaとして材がいくらか輸出されている。材の一般的な用途は建築、おもに軽構造材、フローリング・板材・モールディングなどの内装材、器具、高級でない家具、土木・橋梁(防腐処理を要する)のほか燃材である。樹脂 はdamar rasakとして採取され、ボートのコーキング、照明などに用いられる。  
50.Vatica umbonata BURCK
 Vatica umbonata BURCKSect.Pachynocarpusに属し、マレー、ボルネオ、フィリピン南部に分布する。ブルネイ・サラワクでresak ayer、サバでresak labuan、カリマンタンでdamar tingkis、フィリピンでBlanco narig、lutab、tampusokという。
  小~中高木で高さは30mまでのものがあるが、ふつうはもっと小さい。直径は32cmまで。樹幹にしばしば曲がりがあり枝下高は小さい。板根は低い。樹皮は灰褐色~暗褐色で濃色の斑紋が出る。葉は楕円形などで長さ8~16cm、幅3~6.5cm、側脉は7~8 対あって、ほとんど無毛、葉柄の長さは0.5~1.5cmである。
  花序の長さは12cmまでで、花弁は黄白色を呈する。果実は卵形または球形で長さ3cmまで、表面に粒状突起がある。がく裂片5個は同形で短く、肥厚してコルク質となり果実と合着する。
  次の2亜種にわけられる。基本型はVatica umbonata BURCK subsp.umbonata(異名Vatica blancoana ELMER、Vatica cupularis VAN SLOOTEN)で、もう1つは(Vatica umbonata BURCK subsp.acrocarpa ASHTON異名Vatica acrocarpa VAN SLOOTEN)である。このものは果実が卵形で尖頭、がく裂片の上部は果実から離れて反曲する。
  材の組織では放射組織の構成で大小の細胞が入り混じる異性的様相が強いことが挙げられている。材の気乾比重は0.7  4~1.22の範囲の記載があり、強度および耐朽性が高い。マレー地域ではresakとして扱われている。家屋建築、橋梁・港湾用などの 土木材その他に有用である。 平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る