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平井信二先生の樹木、木材研究

インドカリン属の樹木(その1)
1.インドカリン属の名称と分布
 インドカリン属Pterocarpusはマメ科(Leguminosae)のマメ亜科(Faboideae)に属するかなり大きな属で、新旧大陸の熱帯を通じて約70種、あるいは100種以上もあるといわれる。多くの著書、ことに植物学関係の著書にPterocarpusシタン(紫檀) 属としていることが多い。それはシタンの原植物はPterocarpus santalinus LINNAEUS FILであるとの誤まった説に従って属名もシタン属としているのであるが、唐木(からき、とうぼく)の1種として古くからわが国に輸入されている木材の紫檀の本体は金平亮三氏その他によって別属のDalbergia cochinchinensis PIERREまたはDalbergia latifolia ROXBURGHであることが解明されている。そこでシタン属の名はDalbergiaに当て、Pterocarpusの方は代表種であるPterocarpus indicus WILLDENOWまたはPterocarpus macrocarpus KURZの唐木としての名称カリン(花櫚、花梨)によってカリン属とすることが望ましい。しかし樹木としてのカリンの名称は、バラ科(Rosaceae)またはこれを細分した場合のナシ科(Pomaceae)に属する支那原産のChaenomeles sinensis KOEHNEにふつう使われているので、混乱を避けるためPterocarpus indicus WILLDENOWの和名インドカリンを取りあげてインドカリン属の名を用いることにした。元来バラ科のカリンの名称はその材が唐木のカリンに似ていることに由来したものといわれている。なおPterocarpus santalinus LINNAEUS FIL.の唐木としての名称はコウキ(紅木)である。またPterocarpusの属名にインドシタン属、ヤエヤマシタン属の名を用いた著書もあるが、まぎらわしいシタンの名をつけたものはとらないこととする。
 この属の樹木は各地方でそれぞれ重要な木材用樹種であるため多くの名称がある。一般的な名称の主なものをあげると、インド・ビルマでpadauk、タイでpradoo、ベトナムでdang huong、カンボジアでthnong、ラオスでmay dou、マレーシア・インドネシアでangsana、sena、フィリピンでnarra、アフリカでpadouk、African padouk、中南米でdrago、sangrede drago、パナマでblood woodなどという。
2.インドカリン属の形態
 常緑または落葉の小~大高木で大きいものは高さ45m、直径2mにもなる。ふつう大枝を分岐して主幹は短い場合が多く板根は一般に著しくない。樹皮は灰褐色、暗褐色などで比較的平滑に近く、浅く縦裂または鱗片状に剥げる。葉は互生する奇数羽状複 葉で小葉は3~13個が互生し、やや大形で卵形など、ふつう革質で縁に鋸葉はない。花は腋生する円錐花序につきおおよそ黄色、萼は倒円錐形で先は短い5歯となる。花冠は5個の花弁からなる蝶形花で各花弁に長い爪部があって抽出し翼弁と竜骨弁の縁に 縮れがある。雄ずい10個は上下2群にわかれた両体雄ずいとなり、下部のものは合着、上部のものはふつう離生する。雌ずいは1個で子房上位。果実は裂開しない乾質の豆果で扁平な円板状、中央にふつう1個の種子があってその周縁を膜質の広い翼がとり かこむ。ほぼ円形に近いものが多いが、側縁の1個所が嘴状に突出する。
3.インドカリン属の材の組織
 通常環孔材またはそれに近く生長輪が明らかなことが多い。辺心材の区別は明瞭で、辺材は汚白色から淡黄褐色、心材は淡黄色、黄褐色、紅色、橙紅色、紅褐色、濃紅紫色などで、ときに濃淡の縞があり美しい色調のものが多い。木理は一般に交走し肌 目はやや粗から粗。ふつう縦断面で波状紋が明らかに認められる。
 材の顕微鏡的構成要素は道管、真正木繊維または繊維状仮道管、軸方向柔組織と放射組織とである。道管は単独または2~3個、ときにそれ以上が放射方向などに接続し、孔圏のものの径は大きい。単せん孔でせん孔板の傾斜は水平に近い。接続道管相互 間にはベスチャード壁孔がある。繊維は材の基礎組織を構成し、有縁壁孔が認められるものがあるが顕著でない。軸方向柔組織は周囲柔組織→翼状柔組織→連合翼状柔組織→独立型の帯状柔組織の推移がありきわめて明瞭である。また繊維中に散在する柔 細胞も見られる。これらの中には軸方向に鎖状に配列した結晶を含む多室結晶細胞の形のものがある。放射組織はほとんど単列で階段状に配列することが多く、その構成は同性である。材の水浸出液は螢光を出すことが著しい。
4.インドカリン属の材の性質と利用
 属全体の材の気乾比重の範囲は0.30~1.25ときわめて広く、種類によって違いがあるが、概して0.60~0.80の範囲のものが多い。樹種名が明らかなものの材質数値はそれぞれの項で記す。種類によりまた個体により比重・木理が異なるので製材・切削な どの機械加工性は種々であるが、概して比重の割合には容易とされている。乾燥は重硬なものではきわめて遅いが、乾燥による収縮率がふつうきわめて小さいため欠点が現われることが少ない。また乾燥後の寸法安定性もきわめて良好である。鉋削後の仕 上げ面はふつう良好で、目止めを適当に行えば塗装も良い結果が得られる。釘の保持力も一般に良い。耐朽性・耐蟻性は良好でことに重硬なものではきわめて高い。
 材は紅色系統の美しいものが多いので、世界を通して装飾用材として最も賞用されるものの1つである。すなわち高級家具、とくにキャビネット、建築・船舶・車両の内装、各種の器具、楽器(ピアノ・オルガンの外装、三味線・琵琶・バイオリン・マ ンドリンなどの部材)、彫刻その他に用いられる。近年はスライスドベニアで化粧張りに使われることが多い。高級指物用材の唐木の主要なものにシタン、コクタン、タガヤサンと並んでこの属のカリン、コウキがあげられる。またテチガイシタン(手違 紫檀)といわれるものの多くもこの属の材と考えられている。
 この属のある種の樹皮面に滲出してかたまった紅色の樹脂はキノ(kino、吉納)といわれ、下痢・赤痢などの薬に用いられる。
5.インドカリン(ヤエヤマシタン)の名称と分布
 フィリピン産のnarraは豆果の中央部分が平滑なものをsmooth narraPterocarpus indicus WILLENOW、刺が生えているものをprickly narra、Pterocarpus vidalinus ROLFEとして2種にわけることが多く行われているが、この性質には移行形があって明確に境界を設けることが困難であり、その他の性質でもほとんど区別できないと考えられるので、ここでは1つの種、インドカリンPterocarpus indicus WILLDENOWとして記載する。またPterocarpus pallidus BLANCO、Pterocarpus klemmei MERRILL、Pterocarpus carolinensis KANEHIRAなどもその異名となる。このようなインドカリンは東南アジア・太平洋地域産のこの属の中では最も分布が広く、アンダマン諸島、ビルマ南部、タイ、インドシナ、支那広東省、マレー、ボルネオ、フィリピンから南はジャバ、東はニューギニア 、パラオ、ヤップ、ソロモン諸島に及ぶことになるが、東南アジアのいたる処で街路樹、庭園樹にきわめて多く植栽されているので天然の分布の限界ははっきりしない。また、フィリピンから飛んで石垣島からもヤエヤマカリン(ヤエヤマシタン、オキナ ワシタン)として報告されている。木材として有用で、また植栽樹としてよく知られているので各地に多くの地方名および市場名がある。インドでAndaman redwood、ビルマでpadauk、rosewood、Burmese rosewood、Tenasserium mahogany、タイでpradoo、マレーシア・インドネシアでangsana、sena、Amboyna wood(紅色、小さい瘤のもくのある材)、フィリピンでnarra、asana、naga、tagga、vitali、パプアニューギニアでNew Guinea rosewood、ソロモン諸島でwarara、Solomon padauk、パラオでaras、ヤップでarauなどという。台湾では印度紫檀、中国では薔薇木の名があげられている。和名はカリン、ナンヨウカリンのほかにインドシタンとしたものが多い。また単にシタンとするものもあるが、この名は適当でない。
6.インドカリンの形態
 落葉、半落葉、ときに常緑の中~大高木で高さ40m、直径1.5mにも達する。主幹はふつう短く、板根の著しいものもまた小さいものもある。樹皮は灰褐色などで疎に浅く縦裂する。樹幹面の傷口から暗紅色の樹脂が滲出する。葉は全体の長さ15~50cm、 小葉7~11個からなる奇数羽状複葉で、小葉は卵形、卵状長楕円形など、長さ5~13cm、先端はやや急に鋭尖頭となり基部は円形、全縁で薄い革質である。腋生する長さ15~30cmの円錐花序に花が多くつき、黄色で長さ1.5cmほど、芳香がある。豆果は円形 または広倒卵形で径3.5~5.5cm、疎い綱脉が浮いて出る。種子を囲む翼の部分の幅は1~1.5cm、若いものは全面に細軟毛があるが、成熟すると中央の肥厚した種子部分の表面には産地により無毛のものから短い刺の叢生するものまである。 平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る