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平井信二先生の樹木、木材研究

ペカン属の樹木(その3)
10.シャグバーク・ヒッコリーの概要
 シャグバーク・ヒッコリー(ヤエガワヒッコリー)Carya ovata K.KOCH(異名Carya alba NUTTALL、non K.KOCH、Hicoria ovata BRITTON)はヒッコリーSect.Eucarya、すなわちヒッコリーtrue hickoryに属する。単にヒッコリーという場合に、このものを指していることが多い。カナダ東南部から五大湖地方、アメリカ東部・中部に分布する。英名にshagbark hickory、shellbark hickory、little shellbark hickory、white hickoryなどがあり、また単にhickoryといい、独名にschuppenrindige Hickoryなど、仏名にnoyer tendreなどがある。わが国へは明治中期に渡来している。
 高さ25~30m、ときに40mまで、直径90~120cmになる落葉中~大高木で、樹幹は通直、枝下の長いものがある。樹皮は灰色で、初めやや平滑であるが、間もなく長いプレート状に裂片化し、壮令樹では先端がもちあがって離れたささくれ状になっている 。小枝は太く、大きい灰色の芽をもつ。
 葉は互生する奇数羽状複葉で、小葉はふつう5、ときに7個、倒卵形、楕円形、長楕円状皮針形など、長さ10~15cmである。頂小葉は側小葉より長さも幅も大きい。鋭尖頭、基部は楔形~円形、初め下面に細軟毛と腺点があるが、間もなくほとんど無 毛となる。秋に美しく黄葉する。
 果実はほぼ球形から広倒卵形で長さ3.5~5cmのものが多く、偽果皮(殻)は厚さ3~12mmで最終的には基部まで裂開する。核(ナット)は白っぽくやや扁平で長さ2~3cm、著しい角稜がありその壁は厚い。仁は古く美味である。
 いくつか変種をわけることがあり、小葉が細小なものはash-leaf hickory、(narrow-leaf shagbark hickoryCarya ovata K.KOCH var.fraxinifolia SARGENTとされる。  
11.シャグバーク・ヒッコリーの材の組織、性質と利用
 明瞭な環孔材である。辺材の幅は狭く褐白色、心材は淡褐色から褐色を呈する。年輪はきわめて明瞭である。木理はふつう通直、肌目はやや粗~粗である。
 以下に農林省林業試験場組織研究室の材の組織についての報告を主にして記載する。材の顕微鏡的構成要素が材を構成する割合を測定した結果は、道管14.4%、真正木繊維65.0%、軸方向柔組織6.4%、放射組織14.2%である。
 早材の孔圏部では道管が放射方向に1~2層あってきわめて疎らに配列し、多くは単独、ときに2~3個が放射方向などに接続する。単独の道管の断面形は楕円形などで、接線方向の径は0.20~0.33mm、放射方向の径は0.24~0.40mm、壁厚は0.003~0.004mm 、孔圏外では径が著しく小となり、接線方向の径は0.04~0.16mm、放射方向の径は0.06~0.20mm、壁厚は0.004~0.005mmである。せん孔板は水平に近く、単せん孔で、チロースをもつ。
 材の基礎組織を構成する真正木繊維は長さ1.3(0.7~1.7)mm、径0.018~0.026mm、壁厚0.0025~0.005mmである。
 軸方向柔組織には、周囲柔組織、帯状柔組織、短接線柔組織と単独散在の柔細胞がある。周囲柔組織は1細胞層でほとんど完全に管孔を囲む。帯状柔組織は放射方向に1~2細胞層で、おもに孔圏外で密に分布し、ときに断続する。短接線柔組織は放射方向 に多くは1細胞層で、孔圏・孔圏外境界部付近にときどき出現する。散在柔細胞はごく僅かである。各柔細胞の径は0.015~0.03mm、壁厚は0.0015~0.002mmである。
 放射組織は1~4、ときに5細胞幅で、1~69細胞高、ときに上下に2個が接続し中間に単列部を挟むものは85細胞高に達する。構成はほとんど平伏細胞からなるほぼ同性であるが、やや異性化の傾向をもつ。しばしば細胞内の接線壁に近い部分に樹脂様物 質をもつ。
 材の気乾比重は0.81~0.84、生材から全乾までの全収縮率は接線方向10.5%、放射方向7.0%、体積16.7%、縦圧縮強さ645kg/cm2、曲げ強さ1,454kg/cm2、曲げヤング係数15.1×10(4)・kg/cm2、せん断強さ170kg/cm2の記載がある。
 材の化学的組成を求めた例では、セルロース56.2%、そのうちaセルロース76.3%、ペントザン18.8%、メチル・ペントザン0.8%、リグニン23.4%、冷水抽出物4.8%、温水抽出物5.6%、エーテル抽出物0.6%、1%NaOH抽出物19.0%、灰分0.7%がある。
 材の加工的性質および利用はペカン属の項で総括的に記したものと同様である。核(ナット)は美味で食用となり、葉と樹皮は収斂剤など薬用とされる。   平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る