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平井信二先生の樹木、木材研究

フウ属の樹木(その1)
1.フウ属の概要
 フウLiquidambarマンサクHamamelidaceaeに属し、アジアの東部と西部に隔離して、また北米、中米に、4種または5種が分布するとされる。わが国でも新生代第三紀の中新世~鮮新世の遺体が出土している。英名はsweet gum、red gum、独名はAmberbaum、仏名はcopalme、中国名は楓香樹、楓樹が用いられる。
 落葉高木で、冬芽は卵形などで重なる鱗片で被われる。葉は互生する単葉で長い葉柄をもつ。掌状に3~7裂し、また掌状脉をもち、縁に腺状の鋸歯がある。小さい托葉があって早落する。
 花は単性花で、雌雄同株、花被片すなわちがく片と花弁をもたない。雄性のものは雄ずいのみが多数集まって、小鱗片を混生して頭状花序または縮まった穂状花序をなし、花序に包4個をもち、これら花序がさらに総状に複成して円錐状となる。雄ずい の花糸は短く、葯は2室で縦に裂開する。雌性のものは多数の花が合着して頭状花序をなして単出、包1個をつけ、通常長柄をもって下垂する。一つの雌花は雌ずい1個で子房は半下位、2室、花盤と合着し、胚珠が多数中軸胎座につき、花柱は2個、先端部 は細小な乳頭状突起をもつ柱頭となる。退化雄ずいが5~8個あるがときにこれを欠き、また花盤に鱗片状の突起がある。果実はさく(朔)果が多数合着した球形などで木質の頭状果序(集合果)である。宿存し硬化して刺状となった花柱と、ときに花盤の 鱗片をつける。各さく果は熟すると2片に裂開し、種子は多数あるが、下部のきわめて少数のみが稔性で狭い翼をもつ。
 フウ属は単性花の頭状花序をもつ、花被片を欠くなど、マンサク科の中でも特異な形態をもつので、よく似たラサマラノキAltingiaなどとともにフウ亜科Liquidambaroideae(異名Altingioideae)を形成する。  
2.フウ属の材の組織
 散孔材。辺・心材の区別は明瞭または不明瞭で、辺材は黄白色から灰褐色、心材は淡紅褐色ないし濃紅褐色を呈する。生長輪はほぼ明瞭なものから不明瞭なものがある。木理は交走するものが多く、肌目は精で均質である。材に特別な味や匂いはない。
 道管は単独および放射方向などに少数個が接続する。上下接続する道管要素の接続面が著く傾斜して長いため、横断面では接線方向に2個が接続した形のものが多く現われる。分布数に80~280/mm2にわたる記載があるが、100~150/mm2ほどが多い。単独 道管の断面形は楕円形などであるが輪郭が角ばっており、道管の径は0.03~0.10mmである。せん孔板は著く傾斜し、階段せん孔でバーは12~25個ある。接続道管の間の有縁壁孔は水平方向に長い長楕円形ないし方円形などで、長径が0.03mmまでのものがあ り、階段状ないし対列状などの配列をする。道管・放射組織間の壁孔はレンズ状などであるが、大きい不規則な円形などのものもある。おもに道管要素両端の尾状部にらせん肥厚がある。少数の道管にチロースが出現する。
 材の基礎組織を形成するのは、明瞭な有縁壁孔をもつ繊維状仮道管で、長さは1.1~2.5mm、径は0.015~0.025mm、壁厚は0.004~0.005mmである。
 軸方向柔組織は量が少なく、道管周辺も含めてほとんどが単独で散在する柔細胞で、ときに少数個が連なる短接線柔組織となる傾向を示す。柔細胞の径は0.01~0.04mm、壁厚は0.001~0.002mmほどである。細胞内に樹脂様物質を含むが、結晶は見られな い。放射組織は1~3、ときに4細胞幅で、単列のものは少ない。高さは2~60、多くは10~30細胞高である。その構成は異性で、単列部と多列部の一部は直立または方形細胞の層、他は平伏細胞の層、他は平伏細胞の層である。細胞内に樹脂様物質を含み、 また直立・方形細胞に菱形の結晶が見られる。
 しばしば傷害垂直細胞間道が出現する。その場合は接線方向に比較的密着して配列することが多い。  
3.フウ属の材の性質と材その他の利用
 材の気乾比重に0.50~0.95の範囲の記載があり、中位ないしやや重硬なものが多い。材質数値の例はそれぞれ各樹種の項に記した。
 一般に材の乾燥は遅くないが、狂いや割れなどの欠点が出やすいので注意を要する。製材、切削加工性はほぼふつうと思われる。材の耐朽性は一般に低いとの評価が多い。
 総括的にいってこの属のものはあまり重要な市場材ではない。建築造作材、家具、キャビネット、器具、箱、包装材、桶樽、船舶材その他の用途があり、また合板、パルプ、薪炭材に用いられる。
 樹幹の傷から滲出する樹脂は芳香があり、ことにソゴウコウノキLiquidambar orientalis MILLERからの蘇合香は古くから用いられた香料の一つで、薬用として用いられる。他の種類からも類似の樹脂が得られる。そのほか樹皮、根、果実、枝葉が各種の薬用に用いられる。葉はテグス蚕の飼料となり、小径材をシイタケの培養に用いることも行 われる。
 一般に樹形が良く秋の紅葉が美しいものがあるので、世界各地で街路樹に多く用いられ、また一般の庭園樹としても植栽される。  
4.ソゴウコウノキ
 ソゴウコウノキ(アラビアフウ、オリエントフウ)Liquidambar orientalis MILLER(異名Liquidambar imberbe AITON)は小アジア西南部、シリア原産で、英名はOriental sweet gum、storax、styraxという。
 高さ6~12m、まれに30mまでになる落葉高木または大低木である。樹皮は厚く、灰褐色、橙褐色などを呈し、小さい割れ目が入る。若枝は無毛である。葉は多くは掌状に5中裂し、長さ・幅ともに4~12cm、鋭尖頭、基部は浅心形となる。裂片はさらに少 数個の小さい欠刻をもち、縁に不明瞭な鋸歯がある。全く無毛で、葉柄は長い。
 雄花は雄ずい多数が楕円形ないし球形の頭状花序をなし、それの数個がさらに総状に複成して円錐花序となる。雌花は多数が合着し球形の頭状花序になって単出する。このものが熟した頭状果序は多数のさく(朔)果が合着したもので、球形を呈し径は 2.5cmほどである。各さく果に含まれる少数の稔性の種子は1端に短い翼をもつ。
 樹幹を傷つけて滲出する樹脂から蘇合香(storax、styrax)が得られ、薬用と香料に用いられる。ふつう水分を含んだままの柔軟なもの、すなわち流動蘇合香liquid storax、styrax liquidus)の形で用いられる。storax、styrax、蘇合香(中国名)の名は古くはエゴノキStyracaceaeセイヨウエゴノキStyrax officinalis LINNAEUSの樹幹に滲出するものから得られる固形樹脂であったが、その後このマンサク科の樹脂にも用いられるようになり、またエゴノキ属の学名にStyraxが用いられたので、その間に混乱を生じている。現在はエゴノキ科のものは少なくなり、マンサク 科の流動蘇合香がおもに流通していると思われる。したがって和名ソゴウコウノキは混乱を招くので適当でなく、オリエントフウなどの名を使った方が良いと考えられる。
 マンサク科の蘇合香の成分は樹脂ストレシノール(stresinol)、その桂皮酸エステル、桂アルコールの桂皮酸エステル(stracin)などである。石けん・化粧品の香料、薫香料、揮発性香油の保留材に用いられ、薬用は現在では少なくなっているが気管 支カタルなどに内用し、疥癬・切傷などに外用する。蘇合香はわが国では香道がさかんになった室町時代(14~16世紀)にはすでに渡米していたという。  
5.Liquidambar acalycina H.T.CHANG
 Liquidambar acalycina H.T.CHANGは支那中部・南部産で、中国名を欠萼楓香樹という。
 高さ25mまでの落葉高木で、樹幹は通直、樹皮は黒褐色で浅い縦の割れ目が入る。小枝は無毛である。葉は広卵形で掌状に3裂し、長さ8~13cm、幅8~15cm、中央裂片はやや長く、両側の裂片は三角状卵形、尾状鋭尖頭を示す。3~5本の掌状脉があり、縁 に腺状鋸歯をもつ。下面はやや灰白色を帯び、両面無毛であるが、ときに初め基部にやや軟毛がある。葉柄の長さは4~8cmで、托葉は繊細である。
 雄花は雄ずいのみが多数集まって短い穂状花序になり、これが多数総状に複成して円錐花序となり、総花序柄の長さは約3cmである。花糸の長さは1.5mmで、葯は卵円形を呈する。雌花は15~26個が合着して球形の頭状花序になって単出する。花序柄の長 さは3~6cmで、やや細軟毛を被むる。子房と合着する花盤に突起はないか、またはときにきわめて小さい鱗片がある。花柱の長さは5~7mmで先端が巻曲し、褐色を呈し細軟毛をもつ。頭状果序は球形で径は約2.5cm、乾いて黒褐色を呈する。宿存する花 柱は太く短く、花盤の突起は見られない。さく(朔)果は種子多数を含み、種子は褐色で稜がある。
 散孔材。材は帯紅灰褐色などを呈し、木理は交走、肌目はきわめて精で均質である。道管は単独が多く、放射方向などで接続するものもあるが少数である。分布数は105~120/mm2、道管の接線方向の最大径は0.07mmまたは以上である。その他の組織 はおおむねフウLiquidambar formosana HANCEと同様である。
 材質数値に次の報告がある。気乾比重0.72、含水率1%当りの平均収縮率は接線方向0.36%、放射方向0.23%、体積0.62%、縦圧縮強さ556kg/cm2、曲げ強さ1,159kg/cm2、曲げヤング係数14.5×10(4)・kg/cm2。
 材の加工的性質と利用もフウとほぼ同様であるが、一般に材はフウより重硬で強度も大きく、加工はより困難である。
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