またまた見馴れない字で申し訳ない。檐を支える「たるき」である。このほか桷は角材のたるき、椽は丸のままのたるきである。 これらを併せて榱であるが、宮殿などには「衰」は縁起が悪いということで、が使われてもいる。
 日本では実用的には「垂木」と書かれるが、と書いて「たるき」と読ませている建築文献もある。邦文は元来は右から左へと書く。図面に横書きで「木垂」とあったのをくっつけてしまったものと推理される。 は音が「スイ」で榱と同一であるが、意味は「鞭打つ」と康煕字典には載っている。
 前節の梠を使った宮崎県の難読姓「興梠(こうろぎ)」というのも右からの横書きがくっついたと考えるべきだろう。  軒下に一定のピッチで榱が並んでいるのは、前節の障子の桟や次節の板壁とともにわが国の木造建築の美しさである。榱は、屋根の野地板をむきだしで支えて寒暑乾湿を 受け易いわりには用材の材質が低かった。というよりも、所詮は痛みやすいのでメンテナンスでの取替えを当然のこととして間伐材などを使っていた。道路に面した側や室内など 見栄えを気にする場合には、わざわざその部分だけ別材の化粧垂木を使うことまでしていた。
 野地板と桁の間にできる榱の厚さの分の隙間は、屋根裏の換気を促し、屋根の寒暑が室内に直接伝わらないようにしている。しかし、この隙間に近隣の火災の火の粉を呼び込んで延焼することが指摘され、現在では榱の下に合板などを貼ることが防火上必要とされている。また、寄せ棟屋根では、異なった長さの榱が必要になる。屋根の上で鋸くのもたいへんだからと、予めプレカット工場で用意しても、今度は屋根の上で順番を間違えないように神経を使うことになる。よけいな気遣いは施工を低下させたり、最悪は転落事故にもなる。このため、いきおい榱など使わずに合板のパネルを棟木、登り梁、桁に直接打ち付けるという味気ない工法がとられるようになり、木造住宅の美しさはここでも後退している。