木を生かす木を育てる
自然と寄り添う〈森林生活〉の家づくり |
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200本の土佐杉、50oの厚板の家
建築家・市居博、棟梁・時任健二の家
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● | 杉の香の溢れる現代風民家 |
杉の香の溢れんばかりの現代風民家という感じの家がつくられた。
大阪・和泉市のYさん宅が完成したので見に来ないかとの電話が風の路<lッ
トワーク(日本建築家協会近畿支部住宅部会の小委員会)の主宰をしている市居博
さんから入ってきた。
市居さんは、本誌第2号で紹介した自然派志向の家シーダ・バーン≠造った
人であり、風の路≠ニの交流で旧知の中でもある。翌々日の12月16日、竣工見
学会へと車を走らせた。駅前からやや入り込んだ所で車を止めるとその前が新築な
ったYさん宅だった。
表から外観を見、玄関へ入るとシーダ・バーンの雰囲気もある杉板と貫とモクセ
ン板の壁が「遠慮するなよ」と迎え入れてくれた。
早速ひと回りする。どこもかしこも50oの杉の厚板である。床も天井も壁面にも
杉厚板を貼りまわし、杉板の風合いを引き立てるように鉋屑などを混ぜたモクセン
板が塗られている。
材は奇しくも1週間前に見学した宝塚市の木構造施設、雲雀が丘学園「日本文化館
」と同じ、高知県土佐町の森昭木材鰍ゥらで、土佐材の普及をすすめているドライウ
ッド土佐会(本誌第10号で紹介)の斡旋によるものだった。
木材に関係している性で、すぐに「何立方m使ったのか」と聞くと、立方mは出て
こない。普通はそんな計算なんてしないのだから当然であろう。返ってきた答えを聞
いてこちらが驚いた。「30p上の土佐杉200本」だと言う。
200本の杉丸太をすべて50oの厚板と柱と梁にして使ったというのだから恐れ
入る。
約40坪の敷地だったので平家を造るつもりで1階をつくり、2階をあげたとい
う感じの造りで、1階は居間、ダイニング、母の部屋が中心。2階にYさん夫婦
と子供の部屋というのが大まかな構図だが、いくつかの部屋を便宜上区分けして
いるだけという感じである。それは、どの部屋でも雰囲気が似ているから変わら
ないということではなく、どこに居ても木の香と自然に触れ合えるように、どの
部屋も杉厚板をそのまま床にしているからで、畳も敷かないつもりだからでもあろ
う。
Yさんの奥さんに新しい家の感想を聞くと「まだ住んでいないのでわからないけ
ど、住み心地が良さそう。でも杉の香がこんなにするとは思わなかった」と嬉しそ
うである。
折り良く、建築を担当した工務店・時任住宅の社長で棟梁の時任健二さんが顔を
見せてくれた。そこで、市居さん、時任さん、Yさんとの四人で雑談めいた懇談を
しようということで、ダイニングになる部屋の板の間に座り込んだ。
まずYさんに「どうしてこんな家をつくろうと思ったの?」と質問をしたら「別
に工法にこだわったわけではなく、厚いムクの板で家をつくりたいと思っていたか
ら」だといい、ある機会にシーダ・バーンの写真を見たら50oの杉板を使っていた
ので、市居さんに飛びついたということであった。それに、Yさんは昨年の風の路
<Vンポジウムにも参加して「市居さんの家づくりの思いに共感するものがあった」
とのこと。
Yさんの希望は、とにかくムク厚板で家をつくることであった。10年以上前から、
そんな想いを持っていたが、住んでいた家の建て替え時が来たのと、市居さんを知っ
たことで一気に具体化したものだった。
それだけにYさんは、奥さん以上に嬉しそうで、出来上り具合いを眺め、座り込ん
だ板の間の触感と温もりを楽しみながら話の輪の中に入ってくれた。
時任さんに、「市居さんの設計と注文はややこしくなかった?」と聞くと「いっぱい
ありました」と笑い出し、普通、大工の常識では考えられない梁成の指示などを話
してくれたが、「それは、視覚的要素を考えたから」と市居さんが反論するなど、1軒
の家を建てるのに、心をひとつにした建築家と棟梁の姿があった。
そんな言い合いをしながらも、時任さんは、こんな木でいっぱいの家をつくれたこ
とは嬉しいという。仕事柄、施主の要望を聞いて、あまり乗り気でない仕事も時には
しなければいけないし、プレハブや洋風住宅へと引っ張る力が強い中で、本格的な木
造をつくる機会が少ないと嘆き、「本当は木造しかやりたくない」という。そんな時代
にあって、いわゆる純和風ではないが、木造で木組みを生かした家をつくれたことに
満足気であった。
若い頃から大工として、木造一本槍できた時任さんだけに、木の家づくりへの想
い入れは強く、照れ笑いしながら「木しか知らないから」というのは、木への愛着
と木の家づくりへの誇りのようでもあった。
下写真3枚共に2階部分
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● | 木を信頼し、木と寄り添う暮らし |
確かに市居さんのつくる家は、いわゆる和風ではなく、欧米の田舎の木造と日本
の木造をミックスしたようなところがある。それは市居さんが、一時期傾到した欧
米の近代合理主義的なシンプルな木の家づくりへの愛着(未練)のようだが、Yさ
んにもヨーロッパ建築に魅かれるところがあり、設計も全面的に市居さんに任ねた
ことによるようである。
とは言え、基本は、日本の伝統的な貫構法で、シーダ・バーンと同じく、和の理
念を貫き、性能や便利さ、科学的とか合理的とかを受け入れず、木(杉)という素
材の良さをとことん引き出し、自然とともにある暮らしへと誘う家づくりである。
アルミとか塩ビとか適材適所にという考えも拒否し、木を信頼し切り、たっぷりと
木を使うことで、多少の不都合さも含めて、木に寄りかかって生きる暮らし方の提
案であり、それを無条件に受け入れたYさんの木への想いが形を成した家である。
雑談は、木についてから日本の文化や民族性にまで広がってしまったが、建築界
の話になると一気にトーンダウンしてしまった。
市居さん自身が、まだ洋風住宅づくりが主流を占めている建築界を自嘲するよう
に「建築家が監理までやってはダメなんだと思う、本当は、それは大工さんでなけ
れば木の家はつくれないから」と言う。
木という生きた素材は、図面通りにいかないことが旺々にしてある。図面通り、
建築家の言いなりでは、素材を殺してしまうことにもなりかねない。それは、市居
さんと時任さんを交えた4人共通の気持ちだった。
この間に何組もの夫婦づれや、近所の人が見学に来て、驚嘆の声をあげていた。
暖がなくても寒さを感じさせない語らいであったが、冬の雨雲の日の暮れるのは
予想以上に早かった。
節角だからと玄関で記念写真をとり、Y宅を後にした。
もうすぐ預けてある家具も帰ってきて、一家の新しい森林生活≠ェ始まろうと
している。
風の路<lットワークとYさんの想いが重なり、いっぱい木を使い、先人の知
恵を引き継ぎながら、今の生活をつくるという。現代風普通の民家は、家族の幸せ
と愛を育てることであろう。 (酒井) |
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