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疑問だらけの木の名前  

大阪木のなんでも相談室室長 佐道 健

●〈木の名前あれこれ〉 本誌の16号のQ&Aで「ベイマツがマツの一種かどうか」について書きましたが、相談室には木の名前に関する質問や、疑問が多くよせられています。
木を取り扱ったことがある人なら、ほとんどの人が、木の名前について一つや二つの気になる点があると思います。
そこで、本誌を借りて木の名前に関わる疑問点や問題点を書いてみます。
日本で木材として使っている木の種類はたくさんありますが、実際によく使う木の種類は50~60種、そのほか輸入材が150~200種程度だと思います。
もちろんそれぞれの木には名前がついています。
現在の命名法では、樹木は植物学的に科・属・種の順で細かく分類されておりさらに変種、品種などにわけるときがあります。
それぞれには、国際的に共通した名前(学名)がラテン語でついており、同一種同一名が原則です。
しかし、学術的に必要な時以外には、その土地で使っている標準的な名前(日本では和名)で呼ぶのが普通ですが、それでも一部の地方だけで通用する方言や、商業的な通称で呼ばれることがあります。
もともと木の名前は古い昔に人々が木の種類を区別する必要があって付けたもので、初めから植物学的に付けたものではありません。
そこで花、葉、樹形、材質、用途に似ている点があると、違った種類のものが似た名前、または同じ名前で呼ばれることがあっても不思議ではありません。
逆に同じ種類のものでも、樹木の形態や材質に違ったものがあれば、別の名で呼ぶこともあったはずです。
日本ではかなり以前から家具などに使っているマカンバやミズメのような材を桜材と呼ぶ習慣がありますが、マカンバやミズメはカバ科の仲間(シラカンバ属)でヤマザクラなどの本当のサクラの仲間(サクラ属)とは植物学的には違っていますカバ類とサクラ類とでは花は全く違うので普通なら区別はつきますが、材の性質や樹皮の使い方では似たところがあります。
とくにヤマザクラの樹皮は樺細工といって細工物の表面を加飾するために使うことがありますから、カバとサクラは必ずしも植物名としてだけ使ってきたわけではないようです。
本誌第16号に書いたマツとついていても、マツという名前が付いている木ではアカマツ、クロマツ、ヒメコマツはマツの仲間(マツ属)ですが、カラマツ(カラマツ属)、エゾマツ(トウヒ属)、トドマツ(モミ属)などはベイマツ(トガサワラ属)同様にマツの仲間ではありません。
また、植物学的に同じ属でも、種によって材質がかなり違うケースもあります。
ヒノキとサワラは同じ属の木ですが、サワラにはヒノキの芳香がありません。
実用的には、植物学的にも近く、材質も似ているいくつかの種類の木(種)を含む樹種のグループを一つの名前で呼ぶケースがあります。
ホワイトオーク(北米のホワイトオーク類、中・北部ヨーロッパ産のオーク、日本や中国東北部で産出するミズナラなどを含む)、ラワン(メランチ)類がその例です。
このほか、北米産の数種の材を含むサザンパインや、主としてツーバイフォー用の製材として輸入されているヘム・ファー(ベイツガとベイモミ)も数種の材を含んでいます。
またメイプル(カエデ属)、スプルース(トウヒ属)なども材質がよく似た数種の木を含んでいるといってもよいでしょう。
●〈同じ木でも名前が違う〉やっかいなことに木の名前は同じ木でも、違った名前で呼んだり、全く違った木でも似たような名前で呼ぶことがあります。
地方によって、同じ木でも違った呼び名(方言)で呼ぶことがあります。
その木の特徴や性質、生えている場所、その木にまつわる言い伝えなどによって独自の名前がついたものと思います。
例えば北海道南部から九州にわたって分布しているアスナロ(ヒノキアスナロ)という木があります。
この木の心材は腐りにくく、シロアリに対する抵抗性も大きく、日本の木造建築の土台に使うには最適の木です。
長野県の木曽地方ではアスナロ、青森県の津軽地方ではヒバ、石川県の能登地方ではアテと呼びますが、用材としてはヒバ(青森ヒバ、能登ヒバとして市場に出ている)の名で通っています。
なお庭園樹にもヒノキやサワラの園芸品種でヒバと名の付くものがありますが、これらは、アスナロとは別のものです。
このほか、植物学的には同じ種でも、材質や品質の違いによって、商業的には産地の名前をつけて呼ぶことがあります。
秋田スギ、吉野スギ、屋久スギのような場合です。
外国産材の場合はもっと複雑です。
本来、木の名前はその国(民族)の言葉で呼んでいますので、同じ木でも原産地に住む人々の言葉の違いから産地によって違った名前で呼ばれるのが普通です。
例えば、ラワン材は産地によってフィリピンではラワンマレーシアやインドネシアのようなマレー語系の国々ではメランチ、サバではセラヤと呼んでいます。
日本では普通ラワンと呼びますが、国際的にはメランチが通りがよくなっています。
ここでラワン材について、もう少し書いておきましょう。
この名前は南洋材の代名詞のように使うことが多いのですが、南洋材とは一般に東南アジアや、ときにはパプア・ニューギニアで産出する木材を指し、ラワン材はその一部に過ぎません。
ラワンというのはフラバガキ科のいくつかの属の樹木からとれる木材のうち、軽軟または重硬な木材に付けられたグループ名です。
ラワンはフィリピンのタガログ語で、日本が南洋材を輸入し始めた頃は、その輸出国がほぼフィリピンに限られており、その中身も主としてラワン材であったことから、南洋材=ラワン材ということになりました。
その後、南洋材の輸入がインドネシアやパプア・ニューギニアなどに移ってからも南洋材をラワン材と呼ぶ習慣が残ったわけです。
南洋材では、ラワン(メランチ)類のほかには、クルイン類、カプール類が比較的まとまったグループです。
そのほかにも、種類が多く、しかも輸入される場合にはチークのような高級材を除いて多くの樹種が混在しているのが普通です。
最近では、成長が早く植栽に適しているアルビチア・ファルカータ、生ゴムを採取したときの廃材を製材したラバーウッド、また熱帯産の針葉樹材であるアガチスなどの材が個々の名前で流通しています。
●〈違った木に同じ名前がついている〉  木の名前で困ることの一つに、違った木に同じ名前がついているときです。
近年、ホワイトウッドという名前の木が、製材や集成材の形でヨーロッパから輸入されています。
このホワイトウッドはヨーロッパ産の欧州トウヒ(ドイツトウヒ)で日本のトウヒやエゾマツと同じ、いわゆるスプールの仲間です。
ところが北米ではホワイトウッドと呼ぶ材は日本では街路樹などによく見掛けるユリノキ(ハンテンボク)を指し、ホオノキと同じモクレン科の広葉樹です。
また、最近ではヨーロッパやロシアからレッドウッドの名で輸入される木があります。
これは欧州アカマツで、日本のアカマツと同じ仲間の木です。
とこらが北米ではレッドウッドは耐朽性が高いために外構用材によく使うセコイアを指し、日本にもレッドウッドの名で輸入されています。
そのほか最近ガーデニングに使う木としてよく出回っているレッドシーダーは、原産地の北米ではウェスタンレッドシーダーと呼ばれている木です。
明治時代から日本ではスギの代替材としてベイスギ(米杉)の名で取引されてきましたが。
今ではレッドシーダーの方が通りがよくなっています。
ただレッドシーダーという名で呼ばれる材は広葉樹材にもいくつかあるので、ややこしい話です。
このことと関連していますが、チーク、マホガニー、ウォールナットのように、世界的に商品価値が高い木材があります。
ところがアフリカンチーク、ユーラシアンチーク、アフリカンマホガニー、フィリピンマホガニー、ニューギニアウォルナットなどのように、商業的な意図で木の名前の一部にこれらの有名な名前がついたものが少なくありません。
もちろん、植物学的にも材質の点でも同類のものもありますが、なかには、ただ材の雰囲気が似てるだけというものもあります。
日本でも南洋桐(ファルカータ)、アフリカ欅(アフゼリア)、新カヤ(シトカスプルース)、南洋カツラ(アガチス)などと呼ばれる木が出回っています。
とくに家具用材、ツキ板(天然木化粧単板)には、商業的な理由で勝手に高級材めいた名前を付けたものが少なくないので注意する必要があります。

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