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第5章広葉樹像の系譜と大陸との交流

1.彫刻用材三つの流れ

前章までに私は、彫刻用材の流れは飛鳥時代のクスノキから始まったこと、それが奈良時代を経て、藤原時代になるとヒノキに変わり、このときに白木の美しさを見出した、ということについて述べてきた。その移り変わりの道筋は、当時の時代的な背景と重ね合わせると、素直に肯定することができそうである。ところが白木の仏像が彫られていた貞観の同じ時代に、それとは全く異質な一群の広葉樹の仏像が、ほぼ並行して彫られていたことが分かってきた。その理由はこれまでの考え方によっては、説明できないことである。この章ではそれについて私なりの解釈を述べてみたいと思う。
 いま私は異質の広葉樹といったが、それはセンダン、ケヤキ、ハリギリ、クワ、サクラ、カエデ、カツラなどである。なおこれらの仏像が安置されているのは、奈良の唐招提寺、およびその他の近畿の寺々においてであるが、これをどのように位置づけるかは、その後の流れを考えていくうえで、大きな影響をもつといえよう。
 さてここで私見を述べる前に、彫刻用材を大きく分けると三つになるということについて説明しておきたい。木材の実際的な使われ方を、学問的な立場から論じた文献は少ないが、その中で権威があるものの一つに、農商務省山林局編『木材の工芸的利用』(明四五)がある。いささか古すぎるので意外に思われる方もあろうが、この本は実際に木工技術にたずさわる人たちの意見を忠実に記録し、また広汎な調査資料を収録している点で、最も信頼できるものとして、高い評価を得ている。その証拠にごく最近立派な復刻版がつくられているほどである。その中で木工技術は大まかに、指物、挽物、刳物、曲物の四つに分けられている。そして指物に使用する用材を次のように八つに分類している。 サクラ系、クワ系、クルミ系、ケヤキ系、モミジ系、ナラ系、針葉樹系、唐木系。
 これは外観的な木肌の感じと、理学的な材質とを総合して分類したものであるが、実技の上からも、感覚の上からも、納得できる分かりやすい区分である。
 この考え方に従って、彫刻用材をもう少し大まかに分類すると、私は針葉樹系、ケヤキ系、サクラ系の三つに分けるのが、妥当であろうと考えている。私がそのように提案する根拠は次のようである。いま一つの像を彫るとしよう。その場合、使用する材料が金属であるか、粘土であるか、木材であるかによって、できあがる彫刻はずいぶん違った感じのものになる。同じことは木についてもいえる。針葉樹系にするか、ケヤキ系にするか、サクラ系にするかによって、かなり違った感じの彫刻ができるであろうことは、想像に難くない。そういう立場から、私は彫刻の用材を前記の三つに分類したのである。
 なおここで、ケヤキ系とサクラ系についてもう少し説明する。針葉樹と広葉樹の組織の違いについては、後に第六章で詳しく述べるところであるが、両者は水を通すための道管の有無によって区別される。道管は直径の大きい細胞の連続した組織であるから、材の木口面では肉眼で孔として認めることができるし、板目面と柾目面では、小さな溝状になってあらわれる。ところで木口面における道管の並び方は樹種によって特徴がある。ケヤキは年輪に沿って大きな道管が輪状に並ぶので、環孔材という。一方サクラは小さな道管が全体に散らばるので、散孔材とよぶ。こうした配列の違いは、削った木肌にも大きな特徴を与える。環孔材では年輪が明瞭にあらわれるが、散孔材では年輪はほとんど目立たない。ケヤキの木目が男性的で雄渾な感じを与え、サクラの木目が緻密で女性的な感じを与えるのは、主として道管の配列の違いによるものである。
 これまで私が調べた約七百五十体の彫刻の中にあらわれてきた樹種の主要なものを、上記の分類によって整理してみると、次のようになる。 針葉樹系 ヒノキ カヤ
 ケヤキ系 ケヤキ センダン ハリギリ クワ
 サクラ系 サクラ カエデ カツラ クスノキ ビャクダン
*針葉樹(ヒノキ)*広葉樹環孔材(ケヤキ系)*広葉樹散孔材(サクラ系)*木材の組織のちがい(木口面の顕微鏡写真)