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米国カリフォルニア州の世界一の巨樹、老樹を訪ねて

カリフォルニア州はアメリカの西部に位置している。この州には50種以上の針葉樹が生育しており、そのうち半数ほどが州固有のものである。このような針葉樹の中に樹高、体積、樹齢の面で、それぞれ世界一とされているものが存在している。 センペルセコイア(レッドウッド)  -樹高の高い木-> センペルセコイアはレッドウッドともいわれスギ科に属し、学名はSequoia sempervirensである。  このセンペルセコイア(レッドウッド)は1億数千年前に地球上に現れたものである。レッドウッドの森は太平洋沿岸に沿って細長く分布している。この森にはレッドウッドのほかにダグラスモミ、カリフォルニアシャクナゲなど多くの植物が密生している。
 レッドウッドは樹高の高くなる樹種として知られ90mを超えているものが少なくない。巨大なレッドウッドの中には、「トーレストツリー」(樹高112m、直径3m、樹齢600年)(写真①)、「ビッグツリー」(樹高92.6m、直径6.6m、樹齢1,500年)、「ファンデスツリー」(樹高105.5m、直径3.9m)、「ジャイアントツリー」(樹高110.6m、直径5.2m)など名前のついた有名なものがある。
 中でも川沿にみられる「トーレストツリー」は樹高が112mで世界で最も高い木として知られている。
写真①  トーレストツリー
 この地域の年降水量は1,500~2,000mmと比較的多いが、その大部分は冬期に降り、成長期間である夏期には40~50mmと極めて少ない。それにもかかわらず、このような森林が形成されるのは近くを流れるフンボルト海流により霧が多く発生し、この期間(6~9月)には300mmに相当する水分が供給されることによることが大きいとされている。
レッドウッドの中でも特に樹高が高いものは川沿いに多く見られる。その原因として洪水による影響が考えられている。それは定期的にといってよいほどに訪れる洪水によってもたらされる堆積物の中の栄養分をうまく利用していることや数10cmから1m以上に達する堆積(シルト層)の中に新しい根を形成して成長していくことのできることなどがあげられている。
 また、レッドウッドは山火事にもうまく適応している。レッドウッドの樹皮は厚く数10cmにもなり、水分が多く成分も燃えにくいものが多いため、幹の木材部は燃えても形成層を含む樹皮部が生き残ることが多い。

 他の多くの樹種は山火事で焼失することが多く、生き残ることができても洪水に弱いとされている。この点、レッドウッドは山火事にも洪水にも強い樹種ということができる。更新についてみてもレッドウッドは山火事や洪水で邪魔物がなくなった林床をうまく利用し種子の発芽を行っている。しかし、それでもせっかく発芽し稚苗になったものが2年後には95%が失われてしまうという。<
レッドウッドのもう一つの特性は萌芽力の強いことである。幹、特に根元に近いところで萌芽しているものがよくみられる。幹が何らかの原因で倒れても地際付近の萌芽が成長して成木となることができる。また、倒れた幹に形成された萌芽でもうまく根を地中に伸ばすことのできたものは、やがて成木となることができる。こうしたことから、レッドウッドは回復力の強い樹種といわれている。
レッドウッドの森の中に「妖精の輪」といわれているものがみられる。これは主幹が枯死し、まわりの萌芽が成長して幹となったものが、もとあった主幹をとりかこむような状態で生育しているものである(写真②)。

写真② 妖精の輪」

なお、そのほかに「スクリューツリー」といわれている有名なものがあり(写真③)、これは複数の偏平した幹がねじれたり、くっついたりした状態のもので、どうしてこのようなものができたか不明である。
写真③ スクリューツリー
レッドウッドの材は、美しさ、耐久性などですぐれていることもあって、これまで多く利用され、現在はかつての5%の面積しか残っていないという。
ジャイアントセコイア -体積の大きい木-  ジャイアントセコイア(Sequoia dendrongiganteum)も1億数千年前に地球上に現れたものである。
 ジャイアントセコイアはシェラネバタ山脈の標高1,350~2,250mのところに多く生育している。ジャイアントセコイアの森はレッドウッドの森と少し異なり疎林状態のものが多い。この森にはジャイアントセコイアのほかにサトウマツ、シロモミ、ヒオイヒバ等が生育している。
 この地帯は夏の降水量は少ないが冬の積雪が多く、これが豊富な地下水を供給しており、このようなところに、ジャイアントセコイアが多く生育している。
 ジャイアントセコイアは世界でも最も巨大になる樹種として知られている。有名なものとしてはシャーマン将軍(樹高83.8m、直径11.1m、樹齢2,500年、体積1,487立方メートル)(写真④)、グラント将軍(樹高81.5m、直径10.5m、樹齢2,000年)、その他リー将軍など名前のついたものが多くみられる。
写真④ ジャイアントセコイア シャーマン将軍
中でもシャーマン将軍は世界で最も大きい木として知られ、アメリカの平均的な木造住宅を40軒つくることのできる大きさである。また、いかに巨木であるかを示す話しとして、1978年に落ちてきた枝の直径が2m、長さ40mあり、ミシシッピー以東のどの木より大きかったということは有名である。
 ジャイアントセコイアも山火事に強い樹種である。10年とか20年に1度訪れる山火事に対して、樹皮は厚く(60~70cmになるものがある)、水分が多く、火に強いタンニン類を多く含むことなどから、幹の木材部が焼けても形成層を含む樹皮部は残ることが多いため生育を続けていくことができる。
 森林内には、幹の内部が焼けて洞になっているものもよく見られる(写真⑤)。
 ジャイアントセコイアの更新もレッドウッドのように山火事と深いかかわりをもっている。山火事の熱によって球果から種子が放出されやすくなり、その種子が山火事で土壌が露出した林床で発芽しやすくなるのである。しかし、このように発芽したものも、その後の生育は難しくほとんど大部分が消失していくという。それでも、長生きできるジャイアントセコイアにとっては、1,000年とか2,000年に一度更新がうまくいけばよいのだとされている。

写真⑤ ジャイアントセコイア

ブリッスルコーンパイン -長寿の木- ブリッスルコーンパイン(Pinus longaeva)は長生きできる木として知られている。その中でも「メスーズラ」と呼ばれているものは、樹齢4,765年で実際に年輪が測定されたものとしては世界で最も長命な木として有名である。しかし残念ながら、この木は保護のため所在地は公表されていない。それ以外のものでも樹齢3,000年以上や4,000年以上と思われるものはいくつか見ることができる。
 ブリッスルコーンパインはホワイトマウンテンの標高2,900~3,500mのところに多く生育している。この地帯の年間降水量は300mmと少なく、しかもその大部分は冬期の雪によるものである。土壌はドロマイトで土地はやせており、それに過度の乾燥、低温、強風などがあり、生育環境としては極めて悪いところである。このような悪い生育環境のためか、生育している植物の種の数は非常に少ない。この地帯でのブリッスルコーンパインの成長は悪く、ほとんどは樹高10m以下である。枝幹はねじれ、樹形が著しく奇形を呈しているものが多い。
 また、樹体全体が生きているものが少なく、部分的に生きているものが多く、中にはごく一部しか葉をつけていないものもみられる。
 ブリッスルコーンパインの葉は普通の林地では5年くらいしか生きることはできないが、この地帯では40年も生きることができる。このことが、干ばつなどのときに葉に蓄えている養分を他に供給し生き伸びるのに役立っているとされている。
 このような生育環境の厳しいところでのブリッスルコーンパインの成長は極めて遅々としており、100年間に伸びる年輪幅はわずか2cmであるという。
 このように部分的にしか生きず、成長が遅々としているが、寿命のほうは長く3,000年以上、4,000年以上のものが少なくない。
 なお、このブリッスルコーンパインは水分、養分の多いところでは葉は5年くらいで落ち、伸長成長は良好で普通の樹形を呈し、寿命のほうは1,000年から1,500年であるという。
 生育環境の厳しいところでのブリッスルコーンパインは樹体全体で生きていくことが難しくても部分的にでも生きていくことができる。こうしたことから成長は極めて遅々としている。しかし、このことが結果として長生きにつながっているものと考えられる。
 なお、このブリッスルコーンパインの長生きについては次のような考え方もみられる。
 このような生育環境の厳しいところでは子孫を残す確立が極めて低い。それで子孫を残す機会を多くするために長生きする術を身につけたというものである。長生きするためには無駄なエネルギーを使わないようにみずから機能を低下させる。つまり、みずから枝幹を枯死させて必要最小限の枝幹だけに水分、養分を供給して生きていくというものである。

おわりに カリフォルニア州にみられた世界で最も樹高の高い木、世界で最も体積の大きい木、世界でも最高クラスの長寿の木は、決して恵まれた生育環境下で生育しているものでなくむしろ逆といってよいほどのものであった。
 レッドウッドは10年とか20年に1度訪れる山火事や洪水におそわれ、ジャイアントセコイアは10年とか20年に1度の山火事におそわれている。ブリッスルコーンパインは標高3,000m前後の厳しい気象条件とやせた土壌のところに生育している。しかし、これらの木はこのような生育環境にうまく適応し、うまく利用すらして生きている。まさに、"禍を転じて福"となしているといってよいほどであった。
 これらの巨樹、老樹のある森を訪ねてみて印象に残り考えさせられることが少なくなかった。例えば、レッドウッドの森を歩いていると、中には荘厳といえる雰囲気のものがあり、その中で巨樹、老樹に会うとはっとし、何か目にみえぬものの存在すら感じさせられた。
 こうしたことを体験してみると巨樹、老樹については、単木のみの保全も必要であるが、中にはそれが生育している環境の中での保全というのも是非必要であると強く感じた。
 また、レッドウッドの森ではエルク(大シカ)が、ジャイアントセコイアの森ではブラックベアが人の通る道のすぐそばまできて餌を食べていた。しかし、人も動物もあまり気にする風もないことが強く印象に残り、人と動物の共生のあり方で考えさせられるものがあった。