0286.ケンポナシ


解説
 玄圃梨  分類:テンポナシクロウメモドキ科  分布:日本、朝鮮、中国の浅い山野に自生。北海道の奥尻島が北限。  開花時期:7月  樹形:半球形  樹高:17m位 径60cm~1m 落葉高木  ケンポナシの中国での俗名を「癩漢指頭」という。これは、癩(ハンセン病)におかされた指頭という意味である。和名は果実の形から手棒梨(てぼうなし)の  転訛だろうという。一方で、癩をテンボウとかテンボと呼んだことがあったため、  テンボノナシからケンポナシになったという説もある。
全体に無毛、樹皮は黒灰色。小枝は紫褐色で皮目がある木理:粗。比重:0.65。有用な環孔材。心材は赤褐色  ~黄褐色、辺材は黄白色で、心辺材の区別は明瞭。年輪は明瞭。木理は優しく、  はっきりしていて品もよく、非常に美しい。重さ、強さは中位。
切削・加工は容易。  反りも少なく、割裂しやすい。クワの代用として使用されていた時期もあるが、  経年変化すると光沢のある褐色になるクワとは異なり、紅褐色に変わる。
建築、  家具、楽器用として最高級の材だが、量的に少なく、とくに杢の美しい大径木は  減少している。
 葉は長さ8~15cm、柄があって互生し、広卵形で先はとがり、縁にきょ歯がある。
 下面には褐色の毛がかなりあるものから、無毛のものまでいろいろある。
7月ごろ、小枝の先に多数の淡緑色の小さい花を散房花序につける。
果実は、球形で無毛、短い柄によって、肉質に太くなった花序の枝に付き、中に光沢  のある堅い種子がある。
冬のはじめに、この肉質の部分が枝とともに地上に落ちる。
 甘味があるので、子どもがおやつに食べた。
動物では、鳥ではなくシカやテンなどの獣がこれを食べるとされている。霜がきて木から落ちるころに、ねっとりと甘く  なるからである。
井伏鱒二も、『黒い雨』に、ケンポナシの木の下にテンを登場 させている。 この実は果実酒にして、レモンを加えると美味となる。 ところが、こんなものが  室町時代の物語『鉢(はち)かづき』に登場する。
鉢かづきの鉢ががばっと落ち、  その中から金銀財宝が出てくる場面。
その財宝を列挙した中に「砂金にて作りたる  三つなりの橘(たちばな)、銀(しろかね)にて作りたる、けんぽの梨(なし)」とある。
 橘は「右近の橘」で知られるように権威や権力の象徴。
なぜケンポナシがそれと  肩を並べて銀で作られたのだろう。
漢名は枳 (きぐ)、現代の『中国高等植物図鑑』  にも、生食し、酒に入れるとある。
ところが十六世紀末の『本草綱目』には、この  木が酒をうすくするとか、実が酒に入ると水になるとか、逆の説を記した古い文献  が載せられている。
中国ではケンポナシに何か特別の力があるというイメージが あったようである。
室町時代に日中貿易を通じてそんな民間伝承が伝わり、それが 背景にあるのかもしれない。
   採取と調製: 秋に、多肉の果柄のついた果実を取り、日干しにする。 薬効と使用法: 利尿作用のある硝酸カリを含んでいる。そのほか、蔗糖、ブドウ糖、  リンゴ酸カリ、酵素パーオキシダーゼなどがある。
二日酔いに、乾燥した果実10~15g  を1回量として、コップ2杯の水で1/3両になるまで煎じて服用するとよい。
表皮
写真
大阪市大植物園4月9日撮影