v2.3

平井信二先生の樹木、木材研究

パラゴムノキ属の樹木(その2)
4.パラゴムノキの材の組織
 散孔材。辺・心材の境界は不明瞭で、心材は新鮮時は黄白色でしばしば淡紅色を帯びるが、外気にさらされて淡褐色から黄褐色となる。辺材はこれより淡色である。生長輪は不明瞭または認められない。木理はほぼ通直または浅く交走し、肌目はやや粗 ないし粗であるがほぼ均質である。リップルマークは見られない。新しい材ではラテックスの匂いがする。製材面でときに暗色の樹皮様物質のすじが現れることがあるが、これはまずいタッピングの結果生じたものである。材に青変色と虫害がきわめて出 やすい。引張あて(tension wood)が現れるものがかなりある。脆心材は見られない。
 材の顕微的構成要素が材を構成する割合を測定した1例では、道管10.7%、繊維58.5%、軸方向柔組織6.3%、放射組織24.5%である。
 道管は単独および放射方向2~6個、ときに団塊状に8個までが接続し、分布数は1~9/m㎡である。単独道管の断面形は円形から楕円形で、道管の径は0.10~0.29mmを示す。らせん肥厚は見られない。せん孔板は水平ないし少し傾斜し、単せん孔をもつ。
 接続道管の間の有縁壁孔は交互配列をしその径は0.010~0.013mmである。ときに孔口が結合する。道管と放射組織の間の壁孔対は単壁孔または壁孔縁の小さい有縁壁孔の対である。チロースは部分的に発達し、ときに菱形の結晶を含む。
 材の基礎組織を形成するのは真正木繊維または微小な壁孔縁の有縁壁孔をもつ繊維状仮道管で、長さは0.8~1.6mm、ときに2.3mmまであり、径は0.01~0.03mm、壁厚は0.002~0.004mmである。
 軸方向柔組織では周囲柔組織はおおむね1細胞層を示す。放射方向に1~4細胞層ある不規則で分断した帯状柔組織ないし短接線柔組織があり、また単独散在の柔細胞にも移行する。ときに7室ほどまでの多室結晶細胞がある。柔細胞の径は0.015~0.05m m、壁厚は0.001~0.002mmほどである。
 放射組織は1細胞幅の層と2~4細胞幅の層が軸方向に不規則に混在する形のものが多く、4~40細胞高または以上を示す。構成は異性で、単列部はほとんど直立細胞または方形細胞の層からなり、多列部はこれらより著しく丈が低い平状細胞の層よりなる 。細胞内に内容物が多く、菱形の結晶をもつものがある。シリカは見られない。  
5.パラゴムノキの材の性質
 材の気乾比重に0.53~0.70の範囲の記載があり、0.55~0.65ほどが多いと思われる。生材から含水率12%までの収縮率は、接線方向2.5%、放射方向1.2%でかなり小さい値である。ただし引張あてを多く含むものでは軸方向の収縮が異状に大きく、含 水率1%当りの平均収縮率で接線方向が0.2~0.3%であるのに対し、軸方向は1%にも達するものがあり、従って乾燥によって甚しい狂いが現れる。強度的数値は含水率12%で、縦圧縮強さ337~372kg/c㎡、横圧縮強さ102kg/c㎡、曲げ強さ602~75 5kg/c㎡、曲げヤング係数6.2~9.4×10(4)kg/c㎡、せん断強さ107~112kg/c㎡、ヤンカ硬さは横断面627~747kg、縦断面538~695kgがあげられている。
 材の化学的組成の例では、ホロセルロース約70%、αセルロース約40%、リグニン22 ~29%がある。
 製材は容易であるが、鋸歯にラテックスがこびりつく。変色、腐朽、昆虫の食害が生じ易いので、すぐ加工しない丸太、製材品は防腐処理が必要とされる。天然乾燥は速いが、引張あてなどを含むものは反り、曲がり、捩れが出やすい。
 堆積に重量物を載せるなどの配慮が必要である。人工乾燥も容易で、厚さ5cmの板目材のスケジュールの1例として、初期乾球温度55℃、乾湿球温度差4℃、末期乾球温度90℃、乾湿球温度差28℃があり、また100℃の高温乾燥も可能である。飽削は容易で仕 上げ面は平滑であり、穿孔、施削なども問題は少なく、釘づけ、接着もほぼ良好である。ロータリー単板切削、合板製造も適当に行われる。チップにしてパルプ製造に供することも多く用いられるが、青変色とラテックスの含有がいくらか問題となること がある。耐久性は低く、またキクイムシ、シロアリ、の食害もある。防腐処理は浸漬法、加圧注入法によっても容易である。
 
6.パラゴムノキの材その利用その他の利用
 パラゴムノキはゴム採取のため東南アジア各国を初め世界の熱帯各地で、プランテーションとして大規模に植栽されているが、年数を経たものの植え替えおよび近年アブラヤシ栽培への切り替えによって、大量の材が副産物ないし廃材として出てくる。
 これらはかっては薪・木炭の生活燃材、煉瓦・たばこ・ゴムの乾燥用燃材、パルプ用チップとしての利用が主であったが、現在は各地で家具、建築材として利用の研究開発が推進され、木材生産を主目的とする植栽までが考えられるようになってきている 。
 その用途は家具、キャビネット、建築内装・造作材、これら家具・建築部材用のブロックボードおよび集成材、箱・パレットなどの包装材、家庭用具・木靴その他の器具材などがあり、また棺材、額縁その他もあり、合板、パーティクルボード、MDF( 中比重のファイバーボード)、木質セメント板の製造にも用いられる。なおプランテーションの廃材はきのこ、とくにoyster mushroom(Pleurotus spp.)のすぐれた培地材になる。
 種子には20~30%の油脂を含み、塗料その他に利用される。アマゾンの現地では樹皮の煎液を除痒に、ラテックスに少量のヒマシ油を加えて駆除剤とする。  
7.7.天然疎ゴムの生産
 天然ゴムを生ずる植物はきわめて多くあるが、パラゴムノキからのものはきわめだって品質が良く、生産量も格段に大量であり、ゴムといえばこれをさすことになる。パラゴムノキの内樹皮には乳液(ラテックス、latex)を含む乳管が多く存在し、樹幹 に切りつけをすると、このラテックスが滲出してくる。その組成は水分60%、ゴム質35%、樹脂3.5%、蛋白質2%、灰分0.5%ほどである。ゴム質はイソプレン残基の重合体である。
 採取法は樹幹を切りつけを行って滲出するラテックスを集め、酢酸などの有機酸を加えてゴム質を凝固し、洗った後ローラーなどで脱水、燻煙その他の方法で乾燥したものが生ゴムである。1839年にC.GOODYEARがゴムの加硫硬化法を開発してから急速に 利用が拡大し、タイヤ、ベルト、ホースその他のゴム製品を作るゴム工業が発展した。しかし第二次世界大戦前後を通して合成工業が進展してから次第にこれに圧迫され、現在では合成ゴムの生産量の方が天然ゴムを上まわるようになっている。
 天然ゴムは初めアマゾン地域で自生樹を対象にして採取され、積出輸出港のパラ(現在のベレン)の名をとってパラゴムと称された。1800年代の末ごろのゴム・ブームの時代にボリビア東北隅のアマゾン流域の街リベラルタなどに、日本人ペルー移民が 多く集まってきたなどの逸話が知られている。ブラジル政府はパラゴムノキの持出しを厳重に取りしまっていたが、イギリスは度々秘かにその獲得を試み、ついに1875年H.A.WICKHAMがキュー植物園へ送った種子からの苗木養成が成功し、セイロンに植 栽したものが、後の東南アジアの大規模プランテーションの母樹になったとされている。東南アジアでは豊富に労働力を背景に大々的にゴム生産が拡大されたため、原産地南米では現在は自生樹からのゴム採取はほとんどなく、プランテーションはあって もきわめて少ない。1982年の生産量はマレーシア40.0%、インドネシア23.5%、タイ13.4%、インド4.4%、スリランカ3.3%となっている。
 植栽されたパラゴムノキは数年後から切りつきが行われるが、20年生ほどが最盛期で、30年生前後で更新がされる。  
8.Hevea guyanensis AUBLET
 Hevea guyanensis AUBLET(異名Hecea peruviana AUBLET)はブラジル、ギアナのアマゾン地域産で、ブラジルでseringueira vermlha、seringueira itaubaという。
 高さ30~40mに達する高木である。葉は3出複葉で、小葉は倒卵状楕円形、長さ3~8cm、基部は鋭形から楔形を示し、膜質である。円錐花序の花序軸に絨毛を布く。雄花で花盤はほとんど発達せず、雄ずいは5~6個である。さく(蒴)果の長さは4cmある 。
 散孔材。道管は単独および2~6個が放射方向に接続し、分布数は1~7/m㎡である。単独道管の断面形は楕円形などで、道管の径は0.04~0.18mmを示す。せん孔板は水平または少し傾斜し、単せん孔をもつ。材の基礎組織を形成する繊維(真正木繊維 または繊維状仮道管)の径は0.01~0.025mm、壁厚は0.003~0.004mmである。
 軸方向柔組織では、周囲柔組織はおおよそ1細胞層を示す。やや不規則な帯状柔組織ないし短接線柔組織は放射方向に1、ときに2~3細胞層で、また単独散在の柔組織に移行する。柔細胞の径は0.01~0.04mm、壁厚は0.001~0.002mmほどで、細胞内に内容 物がある。
 放射方向は1細胞の層と2~4細胞幅の層とが軸方向に混在し、3~35細胞高または以上を示す。構成は異性で、単列層は直立細胞または方形細胞の層、多列部はこれらより著しく丈が低い平状細胞の層である。細胞内に内容物が多い。
 樹幹に切りつけをするとラテックスが滲出する。ときに採取されるが、パラゴムノキHevea brasiliensis MUELLET-ARG.のものとくらべると、黄色を呈し品質は劣り、weak rubberと称せられる。現地ではこのラテックスを駆除剤に用いる。  
9.Hevea spruceana MUELLER-ARG.
 Hevea spruceana MUELLER-ARG.はブラジルのアマゾン地域産である。パラゴムノキHevea brasiliensis MUELLER- ARG.に似ているが、葉の下面の葉脈は有毛、花は太い小枝の頂端につき、花はより大きく紅色または鮮淡紫色を帯び、さく(蒴)果はセイヨウナシ形を呈する。ゴム質のラテックスを滲出し、かつてインドネシアに導入されたが、収量が少なく、よい結果 は得られていない。  
10.その他のパラゴムノキ属の樹木
 南米北部に次の種類を生ずる。品質が劣り収量が少ないweak rubberが得られるものがあり、まれに植栽されることがある。
(1)Hevea benthamiana MUELLER-ARG.
(2)Hevea confusa HEMSLEY
(3)Hevea lutea MUELLER-ARG.
(4)Hevea viridis HUBER
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