v2.8

平井信二先生の樹木、木材研究

カキバチシャノキ属の樹木
1.カキバチシャノキ属の分布と名称
  カキバチシャノキ属(イヌジシャ属)CordiaムラサキBoraginaceaeに属する。またムラサキ科から離して、チシャノキ属EhretiaとともにチシャノキEhretiaceaeとされることがあるが一般にには認められていなない。世界中の熱帯、亜熱帯に250種 ないし300種あまりが分布していて、熱帯アメリカで最も多い。
 英名には一般的にcordiaが用いられ、また産地によってgeiger tree(フロリダ)、aloe wood(プエルトリコ)、salm tree(ベリーズ)、kerosene wood、island walnut(以上パプア・ニューギニア地域)などという。現地名ではビルマでsandawa、タイでmandong kalamet、中国で破布木、マレーシアでkalamet、インドネシアでsalimuli、フィリピンでanonang、balu、ケニアでmukumari、キューバでanacahuite、コロンビアでcanalete、アルゼンチンでpeteribiなどとという。
 またS.J.RECORD and R.W.HESS:『Timbers of New World』では北米・南米産のものを、(1)心材が濃色で材が重硬なもの(気乾比重0.80~0.97)と、(2)心材が淡色で材が軽軟なもの(気乾比重0.40~0.70)の2グループにわけ、それぞれに各産地の名称を多くあげているが、そのうちの二、三の 例を記す。
 (1)材が重硬なものの代表種はCordia sebestena L.NNAEUSで、メキシコでamapa acta、baria、キューバでateje、vomitel colorado、ドミニカでmapou、ベリーズでziricote、コロンビアでcanalete、canalete prieta、ブラジルでlouro pardo、アルゼンチンでpeteribi、loro negroなどという。
 (2)材が軽軟なものの代表種はCordia alliodora CHAMISSOで、メキシコでbabosa、macahuite、キューバでvomitel amarillo、varia blanca、コロンビアでcanalete du humo、guacimo、ベネズエラでcanalete、ブラジルでfreijo、claraiba louroなどという。  
2.カキバチシャノキ属の形態
 常緑または落葉の高木または低木、まれに蔓性の木本である。樹幹は短く屈曲するものが多い。ふつい板根は出ない。樹皮は灰色から褐色を呈し、平滑または割れ目ができる。
 葉は単葉でふつう互生し、全縁または鋸歯や牙歯があり、まれに小裂片が出る。ほとんど有柄で、托葉はない。
 ふつう頂生する集散花序は密な頭状になるかまたは散房状を呈し、これらが複成して円錐状になるものが多く、まれに穂状花序を示すものがある。花序に苞はない。花は両性花、雄花と両性花を併有、または多少とも機能的に単性化した同型花で、最後 の場合は雌雄異株となる。がくは筒状または鐘形で、3~8裂し、通常果実に肥大して宿存する。花冠は鐘から漏斗形で、筒部と4~8個の裂片とからなり、白色または緑色、黄色、橙色、紅色などを呈する。雄ずいは花冠裂片と同数でそれに互生し、花冠の 筒部に着生する。葯は内向し2室、基部で背着し、縦に裂開する。花糸の基部はふつう有毛である。雌ずいは1個で、子房上位、4室からなり各室に胚珠1個を含むが、多くは3室は不稔である。花柱は通常2回2又する。柱頭はさじ形または頭状である。果実 は核1個の石果で、中果皮(果肉)は液質または膠質であるが、まれに乾燥した堅果様のものがある。核(内果皮)は骨質で硬い。種子に膜質の種皮があり、胚乳を欠き、子葉にひだがある。地上発芽をする。  
3・カキバチシャノキ属の材の組織
 通常散孔材であるが、やや環孔材的な傾向を示すものもある。先に記した南米アメリカ材についてR.J.RECORD and R.W.HESSが区分したと同様に、他地域のものについても、(1)材が重硬で心材濃色のものと、(2)材が軽軟で心材が淡色のものとの2グループにおおよそふりわけることができる。
 (1)のものは辺・心材の区別が明瞭で、辺材は薄褐色ないし黄褐色、心 材は褐色、暗褐色などでしばしば濃色の縞があり、(2)のものは辺・心材の区別は不明瞭ないしやや明瞭で、辺材は淡灰色など、心材は黄褐色、褐色などを呈する。生長輪は一般にあまり明瞭でないが、横断面で道管孔や帯状柔組織の形状・大きさと配 列の変化で認められるものがある。木理は通直ないし交走し、肌目はやや精から粗の程度のものが多い。原木の欠点では、やや大径になると心腐れが多くなる。
 道管は単独およびおもに放射方向に2~3個、団塊状に5個ほどまでが接続し、分布数は1~25/m㎡ほどの広い範囲にわたるが、5~12/m㎡ほどのものが多い。単独道管の断面形は円形、卵形、楕円形などで僅かに角ばるものがあり、道管の径は0.04~0.3写 真mmである。せん孔板は水平ないし少し傾斜し、単せん孔をもつが、小径道管で多孔せん孔が現れるとの記載がある。接続道管の間の有縁壁孔は多角形ないし円形で交互配列をし、ベスチャード壁孔で、その径は0.005~0.008mmほどである。道管と放射組 織との間の半縁壁孔対は道管相互間のものとほとんど同様であるが、ときに長径が0.02mmまでの大きいものがある。チロースをもつものは少ないが、きわめてよく発達する種類もある。
 材の基礎組織を形成するのは真正木繊維または繊維状仮道管で、後者の場合有縁壁孔の壁孔縁は微細で、また存在は放射壁に限られる。これら繊維の長さは0.5~2.1mm、径は0.01~0.025mm、壁厚は0.003~0.008mmである。
 軸方向柔組織では、周囲柔組織は0~3細胞層で、ときに翼状柔組織、連合翼状柔組織に発達し、またこれらの道管を包含する帯状柔組織を移行する。帯状柔組織は一般に顕著で種々の形ものもがあり、分断するもの、不規則に波状を呈するものなどがあ る。放射方向の幅は1~20細胞層にわたる。柔細胞の径は0.01~0.08mm細胞層、壁厚は0.001~0.002mmほどである。結晶が比較的多く見られ、菱形のもの、柱状のもの、1細胞中に2~数個あるものがあり、また砂晶も現れる。
 放射組織は1~8、ときに12細胞幅まであるが、単列のものがきわめて少なく、一般に3~7細胞幅である。高さは60細胞高まで、ときにそれ以上となる。構成は異性で、鞘細胞はあるが不完全なものが多い。軸方向両端の1~3層の単列部および鞘細胞は 直立細胞、方形細胞または丈が高く放射方向の長さが短い大型の平状細胞の層、他は通常の小型の平状細胞の層からなる。細胞中に樹脂様物質を含み、また結晶が比較手的多く見られる。その形とあり方は軸方向柔組織の場合と同様である。シリカは含ま れない。ときに傷害垂直細胞間道が現れることがある。  
4.カキバチシャノキ属の材の性質と材の他の利用
 属全休の材の気乾比重に0.30~1.00の広い範囲の記載があるが、先に記したように重硬な材と軽軟な材との間にやや較差があり、材の性質および利用についてかなり異なる。材質数値については樹種毎の各項にあげ、ここでは加工的性質についての概略 を記す。
 製材、乾燥、切削加工は材が軽軟なものでは容易であり、重硬なものでも一般にそれほど困難がなく、ときにやや困難なものがあると思われる。心材の耐朽性は軽軟なものでも屋外使用ではややあり、接地・外気条件では耐朽性がなく、重硬なものはそ れより耐朽性が高い。昆虫、白蟻に対する抵抗性は種々である。心材の防腐剤注入処理は一般に困難である。
 樹は大径のものが少なく、ふつう樹幹の形質が良くなく、量的にまとまることが少ないので、一般に重要な市場材とならない。多くは地方的に利用される程度である。ただしパプア・ニューギニア地域からは多少量的にまとまって輸出されるものがある 。
 材は軽軟さに従ってそれぞれ用途があるが、一般的な利用をあげると、建築を含む軽構造材、建築内装・造作材、家具、器具、農機具、彫刻、施削物などで、また燃材にされる。材面に濃色の縞が出る装飾的なものはウォルナットJuglans spp.の代用として、家具、キャビネット、施削・彫刻による工芸品などに賞用される。
 樹皮の繊維からロープが作られ、樹皮、葉は解熱、強壮などの薬用とされる。果実の粘質液は糊に用いられる。  
5.トゲミノイヌジシャ
 トゲミノイヌジシャ(トゲミチシャノキCordia cumingiana VIDAL(異名Cordia kanehirai HAYATAI)は西表島、尖閣諸島に自生し、台湾の恒春半島・紅頭嶼、フィリピンのルソン島に分布している。英名をCuming cordia、中国で台湾破布木、台湾で呂宋破布木、刺実破布木、金平破布木、フィリピンでanonang lalakiという。
 高さ10mまでの小高木で、若枝に淡褐色の細軟毛をもつが後に無毛となる。葉は卵状皮針形ないし皮針形で長さ5~20cm、幅2.5~10cm、鋭尖頭、基部は円形から楔形となる。洋紙質で、疎らな微鋸歯があるかまたはほぼ全縁である。側脉は3~7対あり 、両面とくに上面に剛毛を散生する。葉柄の長さは0.7~3cmで有毛である。
 散房状の配列をする集散花序を頂生し、その幅は3~6cmである。がくは円筒形で長さ4~5mm、淡褐色の粗毛がある。10個の肋条と小さい刺状の裂片5個をもつ。花冠の筒部と裂片5個はほぼ同長で、裂片は広三角形、長さ約3mm、白色を呈する。雄ずい5個 は花冠筒部の中部以上に着生し、やや伸出する。石果は楕円形で長さ1.2~1.3cm、盃状の宿存がくの上にのる。核(内果皮)は斜楕円形で外面に不規則な短柱状突起があり、種子1~2個を含む。
 散孔材。材は灰褐色を呈する。道管は単独または団塊状などに小数個が接続し、一様に分布し、分布数は9~13/m㎡である。単独道管の断面形は円形などで、道管の径は.06~0.16mmである。せん孔板は傾斜し、単せん孔をもつ。接続道管の間の有縁壁孔 は交互配列をし、蜂窩状でその径が0.006mmである。
 材の基礎組織を形成する真正木繊維または繊維状仮道管の長さは0.5~1.2mm、径は0.02~0.03mm、壁厚は0.002mmである。
 軸方向柔組織では、周囲柔組織が1~3細胞層で存在し、帯状柔組織は放射方向に2~4細胞層で配列し、このうちにはターミナル柔組織になるものがあると思われ、また単独散在の柔細胞がある。
 放射組織は1~5細胞幅、3~50、多くは10~30細胞高である。その構成は異性で、接線断面でみて構成細胞の形と大きさは不規則である。
 材は軽軟で、器具などの雑用材、燃材に用いられる。  
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