v2.8

平井信二先生の樹木、木材研究

インドカリン属の樹木(その2)
7.インドカリンの材の組織
 材はふつう環孔状またはそれに近く、生長輪は一般に明瞭である。辺材は幅2~8cmで灰白色ないし淡黄褐色、心材は淡黄色から濃紅色にわたり、フィリピンでは黄褐色系統のものをyellow narra、紅色系統のものをred narraという。L.J.REYESによると、インドカリンを豆果によってsmooth narraprickly narraに区分する場合、両者ともに黄褐色系、紅色系の材が現われるが、黄褐色系は前者に多く、紅色系は後者に多いという。おそらく生育の環境条件、生長の状況によって変化があると考えられ、生長の遅いものまたは老木に紅色系が多いと推測される 。木理はふつう交走し、ときに波状になり肌目はやや粗い。著しい光沢はなく、僅かにシーダーの匂いがある。材面で波状紋が見られる。脆心材の現われるものがあり、また大径のものではしばしば空胴もでてくる。材の水浸出液は顕著な青色の螢光を発 現するが、ことに黄色系の材で著しい。かつてジェスイット派の牧師は螢光が出る材水浸出液の飲物を作り祭祀上に利用した。これは本来はLignum nephristicumといわれるメキシコ産マメ科の樹木Eysenhardtia polystachya SARGENTの材の水浸出液であるが、インドカリンはその代用である。材にシリカは含まれない。
 顕微鏡的構成要素の材構成割合を測定した1例をあげると道管7.1%、真正木繊維または繊維状仮道管67.5%、軸方向柔組織16.2%、放射組織9.3%である。横断面で見ると道管は単独が多いが、また2~3個がおもに放射方向に接続する。孔圏あるいは早材部で も管孔が離れて存在し、ときに環孔材とは思えない状態のものもある。管孔の分布数は早材部で1~4/mm2、晩材部で2~6/mm2で、ふつう管孔の片側または両側が放射組織に接触している。単独道管の形は円形~広楕円形で、径は早材部で0.15~0.40mm、晩 材部で0.05~0.14mm。単せん孔でせん孔板は水平またはそれに近い。接続道管相互間の有縁壁孔は交互配列をし楕円形、径は水平方向でO.006~0.008mm、軸方向で0.004~0.006mm、孔口は凸レンズ形である。ときにチロースを含む。
 材の基礎組織を構成する真正木繊維または繊維状仮道管は長さ1.0(0.8~1.4)mm、径0.02~O.03mm、壁厚0.002~0.006mmである。有縁壁孔が僅かに認められることがあるが、一般に不明瞭。
 軸方向柔組織のうち周囲条組織は横断面で見た場合、管孔の上下の放射方向で1~4細胞層あり、翼状柔組織は接線方向に5細胞ほどまで伸び、管孔の両側では放射方向に1~10細胞層である。連合翼状柔組織および帯状柔組織はときに分断し、放射方向に1 0細胞層まである。また基礎組織中に単独の柔細胞も散在して見られる。以上の柔組織中には軸方向に結晶が4~20個連なる多室結晶細胞が存在する。各柔細胞の径は0.02~0.04mm、壁厚は0.001~0.0015mmである。
 放射組織はほとんど大部分が単列で部分的2列のものも混じり、まれに2~5細胞幅の多列のことがある。単列のものは2~15細胞高、多くは5~8細胞高で、これらが階段状配列をしている。多列のものは25細胞高まで。構成は平伏細胞のみからなる同性で ある。
8.インドカリンの材の性質
 インドカリンの材質についてはかなり多くの報告がある。気乾比重に関しては0.30~0.99という著しく広い範囲の記載があるが、一般的に多いのは0.55~0.70で、この値はPterocarpus属のうちではやや小さい方である。フィリピン材ではred narraの方がyellow narraより比重が僅かに大きいという。収縮が著しく小さいことがこの材の特徴であって、生材から気乾までの収縮率は接線方向1.0~2.0%、放射方向0.5~1.1%、体積2.7%、生材から全乾までの全収縮率は接線方向5.4~5.9%、放射方向3.0~3.2%という記載 がある。強度数値で産地または比重が明らかなものの例をあげると、フィリピン産の気乾比重0.52~0.57のもので縦圧縮強さ525~556kg/cm2、曲げ強さ719~1,000kg/cm2、曲げヤング係数10.6~12.3×10(4)kg/cm2、せん断強さ107~116kg/cm2、インドネシ ア産の気乾比重0.64のもので縦圧縮強さ519kg/cm2、曲げ強さ915kg/cm2、曲げヤング係数13.4×10(4)kg/cm2、せん断強さ93~95kg/cm2、タイ産の気乾比重0.77のもので縦圧縮強さ704kg/cm2、曲げ強さ1,411kg/cm2、曲げヤング係数13.0×10(4)kg/cm2、せ ん断強さ123kg/cm2、パプア・ニューギニア産の気乾比重0.30~0.90のもので縦圧縮強さ215~650kg/cm2、曲げ強さ360~1,100kg/cm2などが報告されている。筆者がフィリピン産の板根材(心材健全部)の気乾比重0.73(0.65~0.81)のものについて試験し た結果は縦圧縮強さ603(414~702)kg/cm2、曲げ強さ1,142(1,062~1,223)kg/cm2、曲げヤング係数12.5(11.1~13.8)×10(4)kg/cm2、せん断強さ109(75~130)kg/cm2、衝撃曲げ吸収エネルギー0.52(0.46~0.58)kg・m/cm2、ブリネル硬さは横断面8 .2(5.3~14.0)kg/mm2、放射断面5.1(3.2~7.6)kg/mm2、接線断面4.2(3.1~6.3)kg/mm2であった。なお筆者は同時に西イリアン産のものの試験も行ったが、これは丸太中央部に脆心材を含むもので、比重が小さいこととともに各強度もすべて著しく低 いことを示した。
 インドカリンの材は中庸ないし、やや重硬という程度でシリカも含んでいないため、製材・切削の手加工・機械加工は容易であり刃物の損傷、摩耗も少ない。ただし、まさ目挽きの場合に交走木理によるむしれが出ることがある。型削り、旋削も良好で ある。乾燥はやや遅いが、収縮率が小さいため乾燥による狂い、割れなどの欠点が出ることが少なく、また乾燥材使用中の寸法安定性もきわめて高い。接着もとくに支障はない。着色または調色は可能で、目止めをしての塗装仕上げ面はきわめて良好であ る。釘の保持力も良い。耐朽性は一般に高く白蟻の食害も少ない。ただし、辺材はヒラタキクイムシにおかされる。海虫に対する抵抗性については適確な判定結果が得られていない。防腐処理はやや困難である。
9.インドカリンの材の利用
 インドカリンは、一般に樹幹の形質がよくないので製材の歩止まりが悪く、大きい寸法の構築材には用いにくい。すなわち、大枝を比較的下の方から分岐して枝下高が短く、樹幹の面に凹凸があり、また板根が高くまであがるものがあることによる。素 材およびスライスドベニアの形で広い用途があるが、家具用材としては最良のものであり、とくにキャビネット用に賞用される。建築・船舶・車両の装飾的な内装、パネル、フローリング、また器具材では製図器具・水準器・科学機器の部材・文房具・そ ろばんの珠と枠・諸器具の柄など、楽器材ではピアノ外枠、三味線や琴の部品、バイオリンの弓などのほか、玉突台・キュー、額縁、ライフル銃床、ブラッシ背板、彫刻、工芸品その他に用いられる。なお杢(もく)の材では前出のAmboina woodのほかに波状木理とリップルマーク(波状紋)で形成されるバイオリン背板もく(fiddle-back figure)などがあり、テーブルトップなどの装飾材、たばこパイプなど高級な小物器材に賞用される。
 カリン(花櫚、花梨)は江戸時代から輸入されている唐木の主なものの1つである。ただしカリンという場合、インドカリンのほかに主にタイおよびインドシナ産のオオミカリンPterocarpus macrocarpus KURZを含めている。カリンはわが国では家具、キャビネット、建築装飾材のほか和楽器、すなわち三味線などの胴と棹、鼓(つづみ)、琴の柏葉その他に用いられることが多い。 平井先生の樹木木材紹介TOPに戻る