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平井信二先生の樹木、木材研究

アセビ属の樹木(その1)
1.アセビ属
 アセビPieris(異名Portuna)はツツジ科(シャクナゲ科)Ericaceaeスノキ亜科Subfam.Vaccinioideaeに属し、アジア東部と北米東南部、キューバに7ないし10種が分布する。英名はandromeda、独名はLavendelheide、Andromede、仏名はandrome de、中国名は馬酔木という。
 常緑の低木または小高木で、小枝はふつう円い。葉は互生する単葉、ふつう鋸歯があり、まれに全縁、革質、通常短い葉柄をもつ。
 円錐花序または総状花序を頂生または腋生し、苞を具えときに小苞もつける。花は両性花で、5数性である。がくは鐘形で5深裂し、蕾では裂片はすり合わせ状にたたまる。果期でも残存する。花冠は壷形または筒状壷形で、先がきわめて浅く5裂し、蕾 では瓦重ね状に並ぶ。雄ずいは10個あり花冠外に挺出しない。花糸は有毛または無毛、まれに折れ曲がり、葯は2室あって、背面の花糸への付着部に2個の刺状の付属体をつける。葯の上方で縦に割れて開口する。雌ずいは1個で、子房は上位、球形で5室か らなり、多数の胚珠を含む。花柱は細長、柱頭は小さい頭状を呈する。果実はさく(蒴)果で、球形、縫合線でとくに肥厚することはない。胞背裂開し、小さい楕円形の種子多数を含む。
 樹が小さいため、材は燃料以外には小さい器具など雑用に用いられる程度である。葉その他各部に有毒成分を含んでいるため、家畜などが誤って食べると劇しい中毒を起こすものがある。樹は常緑で小い花が多くつき、新葉が紅色などを呈して美しいも のがあるので、庭園樹に多く植栽される。  
2.アセビの分布と名称
 アセビPieris japonica D.DON(異名Pieris polita W.W.SMITH et J.F.JEFFREY、Pieris popowi PALIBIN、Andromeda japonica THUNBERG)は本州(宮城・山形県以南)、四国、九州に生じ、風衝地や乾燥した山地に多く、ときに亜高山帯までに至る。支那中部にも分布する。有毒のため馬が誤って食べると中毒を起こすので、馬酔木の漢字が多く用いられるが、これはわが国ででき た漢字名とされ、逆に現在は中国でも馬酔木を用いる。中国の別名にシン木日本馬酔木がある。英名はJapanese andromedaが当てられる。
 各地で広くふつうに見られるので方言名がきわめて多い。これらをいくつかの系統にわけ、おもに倉田悟『日本主要樹木名方言集』、『続樹木と方言』その他の著書に従ってそれらの意味をあげる。
 (1)アセビ系(アセボ、アセミ、アセモ、アシビ、エセボなど、全国)アシビは『万葉集』にも出ている古名とされる。これらの語源については、アシシビレが縮まったもの、悪しき実の意味、はぜ実の転化したもの、樹肌の感じから汗疣(アセボ)と いったものなど、いろいろな説がある。
 (2)ウマクワズ(神奈川県)、シシクワズ(鹿食わずの意、長崎県)、ウマコロシ(長野県)、ウシコロシ(山口・三重県):葉が有毒なことによる。ハクワズ系(奈良県)、ハモロ系、ハコボレ(以上2奈良・和歌山県)、ドクシバ(高知・愛媛県)、 シタワレシバ(静岡県)、フグシバ(高知県)、ブスゴ(ブスは附子か、東京都)、バスイギ系(馬酔木、東北)、ニガキ(和歌山県)、ワサビ(山口県)も有毒なことによると考えられる。
 (3)ウジハライ、ウシノシラミトリ(以上和歌山県)、ウシアク系(福井・和歌山県)、タデシバ系(タデは煎汁で処理する意、高知・愛媛県):枝葉の煎汁で家畜の虫をとることによる。
 (4)バリバリシバ系、マメエリシバ、ゴマイリ系(以上中国):焚火の音による。ゼニカネシバ(鳥取・島根県)も銭勘定の音か。
 (5)パチパチバナ(山口県)、バエバエバナ(山形県):子供の遊びで花をぱちぱちつぶす音と思われる。
 (6)テヤキ系、オバノテヤキ(山口・島根県)、オバンチャキ系、バンチャキ(山口県)、バンチャ(島根県):倉田悟はお婆さんがいろりに手を出したままうとうとし、アセビの焚火で手を焼くと解釈している。また煎汁を番茶に見たとの説もある。
 (7)ムギメシバナ系(中国、鹿児島県)、コメシバ系(東北、和歌山県)、ヨネシバ系(九州)、イナボ(長野県)、エナバ系(三重・大分・熊本県)、チョウチンバナ(東北):花の様子から。
 (8)サルッポ系(福島・茨城県):倉田悟は赤い新芽を猿の顔か尻にみたてたとの説を出しているが、サルスベリ、サルナメリ(以上山口県)とともに樹肌が滑らかなことによると見る方がよいと思われる。
 (9)オナザカモリ(京都府)、オナダカ(兵庫県):女酒盛りで、桃の節句ごろに花が咲くことによるとの説もあるが、またオンナサカキの意かも知れない。
 (10)ヒガンギ(鹿児島県):花期によるか、または仏花にすることによる。ハナシバ(山口県)は仏花によると思われる。
 (11)ヤマシキビ、シキビ(以上埼玉県)、、ユズリ(山口県)、イワモチ(鹿児島県):類似した常緑樹にたとえたもの。
 アセビは常緑であるため、正月の飾りなど民俗行事の上でもよく使われている。
 近畿では山野にごくふつうに見られ、古くからよく知られていて、『万葉集』には10首が出ている。大伯皇女が弟大津皇子を悼んだ次の歌がある。
 磯の上に生ふるあしびを手折らめど見すべき   君が在りといはなくに  俳句にも多くうたわれている。
 米し方や馬酔木の咲く野のひかり 秋桜子
3.アセビの形態
 高さ6m、直径25cmまでになる常緑低木ないし小高木であるが、まれに高さ10m、直径35cmまでとなる。枝を多く分け、しばしば樹幹は屈曲あるいは捩れる。樹皮は灰褐色などで、ふつう浅い縦の割れ目ができて薄片となって剥げるが、またときに剥げた 跡が比較的平滑で、斑らの色彩を呈するものがある。枝は輸生状に出て、若枝は緑色で微毛がある。葉は枝先に集まり、広倒皮針形で長さ3~9cm、幅0.8~3cm、鋭頭、基部は狭い楔形を示し、中部以上に浅い鈍鋸歯がある。革質で、上面は深緑色で光沢が あり、中肋がやや隆起して基部に短毛を散生し、下面は淡緑色を呈し無毛である。葉柄の長さは0.4~1cmである。
 3~5月に開花するが、前年の秋から花序を出し蕾をつけている。円錐花序を頂生して下垂し、長さ5~15cm、ときに90cmにまで達するものがあり、花序軸には微毛がある。苞が皮針形で長さ2mm、花梗は長さ3~4mmで微毛があり、中部より上方に針形で長 さ1mmの小苞を2個までつけるかまたはない。がくは5深裂し裂片は広皮針形で長さ3mmある。花冠は白色を呈し、壷形で長さ6~8mm、先の方は狭くなり5浅裂し、裂片はやや反曲して蕾では瓦重ね状に並ぶ。内外側ともに無毛である。雄ずいは10個あり、花 糸は有毛、葯は2室で背面の下部に長さ約1.3mmの刺状付属体2個をつける。雌ずいは1個、子房は無毛で、5室があり各室に多数の胚珠が下垂してつく。花柱は細長で、基部はやや太く、無毛、柱頭は頭状を呈する。さく(蒴)果は9~10月に熟し、扁球形で 上向し、径5~6mm、がくを宿存してつける。種子は多数で曲がった長楕円形など、長さ2.5mmほどで小い。褐色を呈する。
 
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