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語源に見る日本人の感性

 

木々や草花の語源を探ってみよう

   

古代史/語源研究家  池田 仁三

 小学生らしい男の子「お父さん、時間 て自然なの?」父親「う、う???」 (返答に困って声も出ない)。
 朝の通勤の車中のラジオから、会話は 成立しなかったけれども、親子の微笑ま しい風景を彷彿させるある保険会社のコ マーシャルが流れてきた。
 時間て本当に何なんだろう。
父親とし てどう答えてやれば良かったのだろう。
 このような子供たちの素朴で純粋な疑 問に答えるには、我々の祖先である古代 の人々が、自然と共生するなかで育てて きた日本語の語源を溯らなければなりま せん。
明確に「時間(とき)は自然だよ」 と答えるためにも。
現在の言語学の世界では、日本語を含 め言葉の音に意味があるとする考え方は タブーになっています。
それは、発声学 的に言葉の音には意味がありそうだと気 づいた何人かの言語学者が、言葉の音の 意味の抽出に挑戦したけれども、言葉の 個々の音が持つ概念を把握するための定 性的分析方法を見つけることができず、 言葉の語源を音から正確に溯ることに失 敗し続けた結果でした。
東京工業大学名誉教授川喜多二郎氏が 考案したKJ法(氏の名前の頭文字から 名づけられた)は、定性的事象の分析に 極めて有効な手法で、そのままでは言葉 の音の分析には対応できないけれども、 少し工夫を加えることにより日本語の音 の意味の分析を可能にしてくれました。
 その方法は至って簡単で、同じ音を含 む言葉の概念をビーストーム(蜂が群れ をなしてブンブンうなっている様子から 名づけられた発想法)で多数引き出し、 その概念の中に共通の意味を見つけよう とする方法です。
 この方法のキーポイントは、同じ音を 持つ言葉として出来る限り少ない音節 (せいぜい2~3音節、例えば「う」で あれば、うそ、うらなど)の言葉を選ぶ ことと、同じ音を持つ言葉の概念(意味) を挙げるときに、努めてその言葉の特質 (アイデンティティ―)をよく表現して いるものに絞ることです。
ビーストームだからと何もかも「可= OK」では、思考が拡散してしまって適 当な共通の概念は見つかりっこありませ ん。
 それでは例をあげてその方法を説明し ておきましょう。
まず、先の「う」音を 例にとってみましょう。
  うそ(嘘) 本当ではない話、信じ られない話、見たことも聞いたこともな い話、直ぐ広がる話    うら(裏) 表の反対、表からは見 えないところ、静かな内海、汚い個所   うち(内) 外の反対、閉鎖された 個所、外からは見えないところ、家のこ と   うき(浮子) 魚釣りの道具、木や 竹で作る、水に浮く もの、魚がかかる と沈んで見えなくなるもの   うま(馬) 大きな生き物、早く走 る生き物、背の高い生き物、競走馬   うし(牛) のろい生き物、荷物を 運ぶ生き物、美味しい肉(松阪牛)、ミル クが採れる生き物   うご(動)く  じっとしていない、 どこかへ行ける、ゆれている、鼓動がす る   う(浮)く 沈まない、軽いもの、 泳ぐ様子、流れて行く  「う」音を含む初めの4語には「見え ない」「見たこともない」「見えなくな る」のように、「見えない」と同じ概念が 含まれていることがお分かりになると思 います。
同様に「う」音の後の4語には 「動く」「行く」など行動を伴う概念が含 まれています。
「う」音に「見えない」と 「動く」の二つの全く異なった概念を持 たせると、言葉は「アイデンティティー」 を失ってしまって人々は正確に情報を伝 えることができなくなりますので、現在 は同じ「う」音ですが、古代にはきっと 異なった音だったのでしょう。
「うき」に は両者の概念が含まれていますが、ここ では、そのままにしておきましょう。
 なお、「うき」の語源は、水泳の補助具 としては「浮き=うぅーき=wu‐ki =浮かぶもの」で十分ですが、魚釣り道 具の「浮子」は、「う―き=u‐ki=魚 がかかるとすっと見えなくなるもの」の 方を採用しておきます。
日本語の全ての 音とその変化を分析した「百音図」と「音 の変化表」を載せておきますので、事後 の語源探索の参考にしてください。
 この「百音図」を利用すると、先の小 学生の疑問に答えることができます。
 古代の人々は、時間の経過を「とき= 時」、「ひ=日」、「つき=月」、「と し=年」で表現してきました。
 「とき=時」は「と=to」音の「出 入りする」、「き=ki」音の「もの」か ら、「出入りするもの=潮の干満」のこと で、潮は1日に4回その流れの方向を変 えます。
海や川を漁や交通の場としてい た古代の人々は、「とき=潮の干満(最も 小さなサイクル)」を生活の基準として生 きてきたのです。
「ひ=日」は「hi=太陽=太陽の出没 (一日のサイクル)」、「つき=月」は「t u‐ki=どんどん欠けて見えなくなる もの=一朔望月(1月のサイクル)」、「と し=年」は「to‐si=より確かに全 て=春夏秋冬の一巡(最も大きなサイク ル)」は説明の必要がないでしょう。
 子供たちに「時間は自然です」としっ かりと答えてあげてください。
時間の概 念が自然であることが分かったとき、子 供たちは人と自然との関わりの深さに気 づき、その行動や考え方に大きな変化が 現れてくるでしょう。
飽食や便利さの中 で大人達が忘れかけている自然に対する 感性、森の小さな動物たちや可憐な草花 などに対する慈しみの気持ちが、きっと 湧き出てくると信じています。
 環境破壊が地球の滅亡につながると叫 ばれ、環境マネージメントシステムの国 際規格であるISO14001の認証取 得を図る企業や地方公共団体も増加しつ つありますが、真の環境保全は、人々が 自分達と自然との関わりの深さを感じた ときから始まるのです。
 
少し前置きが長くなりましたが次号よ り、木々や草花の語源のお話に入りまし ょう。
木々や草花の語源を通じて、古代 の人々のすばらしい感性に触れてみたい と思います。
 「う」音の一つに「見えない」と同じ 概念がふくまれているようですので、 「う」音を含む他の言葉で検証してみま しょう。
岐阜県の中心部を流れる長良川は「鵜 飼い」で有名ですが、この「鵜=う」とい う鳥は、他の水鳥と少し異なった特性を 持っています。
ほとんどの水鳥が羽から 上は水の上に出して泳ぐのに反して、鵜 は首から下の大半の部分を水中に沈めて 泳いでいます。
そして、急反転して水に 潜ると、水中にいる時間がとても長く、 次にどの位置から浮かび上がってくるか の予測が極めて難しいのです。
この様子 を見た古代の人々は、「う!(見えなくな った)」と叫んだのでした。
「海=う-み」は「う」音と「み」音 で作られいますが、「う=u」音を「見え ない」という意味にすると、「水平線の彼 方に遠ざかる舟や陸地はやがて下の方か ら見えなくなくなる」という「海」の顕 著な特質(アイデンテティー)の一つを 明瞭に表現していることが分かります。
「うみ」の「み」音は「むぃ=mwi」 音で「本当に広い」という意味ですので、 「うみ」の語源は「本当に広くて遠くの 方が見えない(ところ)」でした。
「海= うみ」の語源は、海洋民族であった我々 の祖先が自らの目で感じたとおりに名づ けたものでした。
 もう一方の「う」音の方の詳しい説明 は省略しますが、鵜や海に使用されてい る「う」音ではなく、「動く、行く、揺れ る、浮く」など「動く」という概念を表 現する「うぅ=wu」音でした。
 現在日本人が使用している「う」音は、 古代には「う」音と「うぅ」音の2つの音 に分かれていました。
また、ワープロで 「いく」と「ゆく」を漢字に変換すると 共に「行く」になります。
現代人が「い く」と「ゆく」を全く同じように使用し ているのは、古代の「わ行」の「うぅ= wu」音に、「い」音と「ゆ」音の両方に 聞き取れる成分が含まれていたからでし ょう。
 
プロフィール 池田 仁三(いけだ じんぞう) 昭和13年大阪府堺市に生まれる。
昭和 37年に防衛大学電気工学科を卒業。
古代 史・語源・恐竜化石研究家、古代大和を 考える会会員。
平成5年から伊勢市職員 嘱託総務部参与。
主な著書に「このすば らしき日本語」(岳書房)、「碑石が解き 明かす古代史の謎」(古代大和)、「大和 の古墳と陵主たち:桜井、山辺、飛鳥」(古 代大和)、「コンピューター画像解析」 (古代大和)、「日本人の特性:その勤勉 さの原点を探る」(ディフェンス)、「古 代の日中交流:その源流を探る」(ディフ ェンス)、「三重の地名紀行:地名は古代 の道しるべ」(伊勢志摩)などがある。
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