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木の家をつくる建築家のこころ

改築で木の家を身近なものに

―自然素材でつつまれた家づくり―  
大阪市 佐野設計室 佐野江利子
 

●木の家をもっと身近に
               住宅はただ住むだけの器では無いことは、本誌でもさんざん訴えてきました。住む家が 心の拠り所となり、また健康を育む場所でなくてはならないことは、もう常識となりつつ あります。 そして、そのためには呼吸する家、すなわち、日本に昔からある木の家がもっとも有効 です。しかし、高度経済成長の中で、いつしかプレハブ住宅が市民の住宅のように認識さ れてしまいました。また、平均的な収入の家庭は、経済的にも、本当の「住みがい」など を考える余裕などもなかったのが実情です。 しかし経済的に余裕が無くても、少し工夫をすれば、「住みがい」のある家に住める実 例が沢山現れています。また、新築は無理でも改築によって、「住みがい」のある家を手 に入れた人達もいます。 建築家の佐野江利子さんは、ごくごく普通に生活している人達の住宅を、「住みがい」 のある家に変身させています。もちろん狭小住宅だけではなく、多種多様な設計も手がけ ますが、「出来るだけ普通の家が作りたい。普通の生活をしている人の家を作りたい。」 と言います。ある程度自分の生活感に共通点のある家こそ、自分に設計出来る住宅であり その感覚を大事にしながら、設計にあたっています。 使う材料は、木材はもちろんのこと、できる限り自然素材を使用します。「断熱などの 性能は数値的には建材が優れている部分もあるかもしれませんが、数値には表れない、人 間に与える効果があるはずです。だから自然素材にこだわる」と言います。ぱっと見の派 手さを求めず、見えない部分もしっかりとつくり、住む人と周りの空気にやすらぎを与え てくれるのが佐野さんの手掛ける家です。今回は佐野さんが設計した家を二軒紹介します
●吉野材を使いこころ安らぐ家に 兵庫県の中山寺に建てられたこの住宅は、木造二階建てのシンプルな建物です。施主は もともと木造二階建ての建て売り住宅に住んでいたが震災に会い、マンションに一年近く 仮住まいをしていた。このまま、マンションに住むか、自宅を再建するか迷っていたが、 木造の家造りの勉強会などに通ううちに、本来家はくつろげる場所でなくてはならない、 マンションは便利ではあるが本当にくつろげるスペースではないのではないかと感じ、佐 野さんに依頼して、建築に至った。 阪神大震災を経験したため、耐震にも充分な考慮をはらい、本誌に連載寄稿中の田原さ んに構造設計を依頼した。 敷地は広くはなく、また掛ける費用も潤沢には無いが、プランを工夫することで、自然 素材をつかい、木も沢山使用し、住む人に心地良さを与える住宅に仕上がった。 一階に、洗面所、トイレ、風呂、寝室を、二階には台所と居間と書斎。また屋上にはデ ッキもつくられている。 壁は中塗りプラスター木ごておさえの仕上げで、ざらりとした質感は風情を醸し出して いる。 土台には檜を、柱、梁、床には杉を使っている。使用された材はすべて、奈良県の吉野産 のもので、建築にあたって、施主と共に、吉野まで材を見に行った。 佐野さんは、この時初めて山まで材を見に行ったという。それは期待以上の成果があり 納得のいく材が手に入り、施主にも満足してもらえるものになったという。
この家では土台と柱を止める込み栓に黒檀を使用している。大工が土台や柱に使う桧や 杉があまりに良い材なので、それに合わせて気っ風を出して自分の持っていた材を使用し たそうだ。本来の家作りは、このような、人の気持ちの集積なんだということを考えさせ られる。昔の家づくりにはこのようなエピソードが溢れていたのではと思われる。プレハ ブ住宅が隆盛を極めていくうちにいつしかそれらは忘れられていた。 二階の居間の窓は、壁の中の戸袋にすべて収納して開け放しにすることが出来る。外に は濡れ縁が作られていて、家の内と外とが融合する空間になっている。 居間と台所は戸で仕切られているが、開け放つとひとつの空間として使うことができる また、階段を上がってきて、居間に入る引戸はガラス張りのため、床面積以上に広い空間 を体感できる住まいである。 二階からは屋上デッキに上がることが出来る。佐野さんは、住宅のどこかに、このよう な遊びのスペースを作りたいという。日々の疲れを癒してくれる様なスペースがあると言 うだけで、心にゆとりが生まれてくる。 濡れ縁や塀に使われている木材は最初に施した塗装が劣化した後は無塗装で使われてい る。年数がたつに従って色が変わり風合いが出てくる。塗料を使ってもいいのだが出来る だけ使いたくないという。塗料といっても、日本の気候風土では、何年かに一度は塗り直 さなくてはいけない。それよりは、材を少し太く取って木質感を高め、強くしておけば、 それでいいのではないかとの考えがある。 「無垢材は拭き掃除が嫌いな人にはあまりすすめません。拭くときには近づいて見なく てはなりません。よく見ると愛情がわきます。現代の多くの日本人は、手がかからず、い つまでも汚れないものが好いものとし、石油化学製品が使われていますが、それには愛着 はわきません。手間がかかっても木には愛着がわきます」と佐野さんは言う。 手間をかければその分、住む人に安らぎを与えてくれるのが木の家である。
●自分たちで育てる菩提町の家 大阪府堺市の菩提町にある家は、30年経った建て売り住宅だったものを改築したものであ る。子ども二人が独立したのでこれから二人でゆっくり暮らせる家に改築したいと施主は 考えた。孫たちが遊びに来た時に皆で集まれる空間を作りたいというのが施主のただ一つ の希望だった。 解体すると想像以上にひどい状況だった。梁は途中で寸が足りず、継ぎ足しているのだ が、地震などで大きな力がかかれば、とても危ない状態だった。その他にも様々な手抜部 分が出てきた。ごく普通の人達が買う建売住宅の姿がここにあったが、佐野さんによって 生まれ変われることとなる。 まずは基礎を補強し、土台を取替えることから始まった。基礎は改築してしまった後は もう触れないので入念に行う。 この家にも吉野産の檜、杉が使われている。壁に隠れていた柱も、見えるようにした。 そうすることで一層呼吸する家になる。もともとあった梁の下に、新しい梁を入れるなど 補強を行い、安全面も確保した。 部屋の中などには、デンマーク産の石鹸塗料をよく使う。これは、デンマークでは家具 用などに使われているもので、普通の店に売っているものを気軽に使っている。オイル等 に比べると水を弾く力が弱いので、使う人を選ぶが、触った質感は柔らかく、見た目も柔 和な印象を与えてくれる。石鹸なので、小さな子どもが舐めても無害で、安心して使える 品である。
一階の南側に皆が集まれる広い居間、北側にキッチンがある。二階には二つの和室があ る。改築前の二階はとても暑かったので、天井を剥がし、屋根の下に木材の繊維で出来た 断熱材を使い、居住性も高めている。 もともとあった階段は急であり、老後使用するには、しんどい代物だったので、緩い階 段に掛け替えた。階段もすべて無垢の杉で作られている。 トイレや風呂、洗面所なども檜と杉がふんだんに使われている。欄間を透明ガラスにし たり、北側台所にトップライトを設けたりして随所に工夫が施され広く感じることができ る。 引戸を開け放せば、広い空間として使え、また、戸を閉めることで、自分の空間が作れ る家である。家族の和をはぐぐみ、また、個人を大切にする生活がそこにはある。 屋根と外壁はこれまでのままで、費用が出来てから改修するという。また、建築後にも 施主が自分で出来る部分は、自分たちで手を掛けて育てていくという。


「専門家にしか出来ない部分はしっかりと作ります。お金が無ければ、自分たちで出来 る所は、住んでから除々に作っていけばいいと思います。本来家を建てることは、なかな か手の届かないことだと思います。二世代、三世代掛けて完成させるもので良いと思うの です。地球の環境に負荷をかけないという面もありますが、ちょっと長いスパンで家づく りを考えて、足りない所は次の世代に作ってもらう位のおおらかな気持ちを持ったほうが 好いのではないでしょうか。」と佐野さんは言う。

家を建てる行為はその人の生き方の現れとも言えます。あまりにもスピードの速くなっ てしまった世の中で、一世代しかもたない住宅を量産する生き方に行き詰まりを感じる今 佐野さんの家づくりに共感を受ける人は多いのではないでしょうか。


一級建築士事務所 佐野設計室

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