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木の家づくり・各地の動き

市民参加型のなかなか家造り

●コンペで選ばれた 「まちなかモデルハウス」第1号棟

「まちなか住宅」という言葉は、いかにもこれからの街での家づくりを考えさせるもの がある。 この「まちなか住宅」づくりの端緒として「まちなかモデルハウス」第一号が建設中で 間もなく完成しようとしている。 このモデルハウス第1号は、「やわらかな住まい」をコンセプトにしたもので、遊空間 工房が設計し、三洋建設㈱が施工している木造軸組の三階建住宅である。 神戸は、先の阪神・淡路大震災で未曾有の被害を受け、多くの住宅が倒壊・半壊に見舞 われた。 この震災では、プレハブ住宅の倒壊が多く見られたものの、火災との関係などもあり、 木造住宅批判が圧倒的な勢いで流布された。その結果、街中には、華やかさと耐震性を謳 ったプレハブ等の住宅が無数に建つことになった。 そのために、神戸の面影が薄れ、街並みの様相が大きく変化してきている。この間に建 てられたプレハブ住宅には、商業主義優先での問題が多く、拙速の感のまぬがれない欠陥 住宅も少なくない。街並みづくりは、神戸らしさを語る上で欠くことのできない大切な課 題となっている。 また、街中には、倒壊したり焼失した家の跡が更地のままに点在している。その多くは 借地借家だったところで、土地所有者にとっては、先祖から受け継いだ土地で、売るつも りはないが、借地権訴訟が続いているところもある。 神戸市では、"神戸21世紀・復興 記念事業"に取り組んでいるが、その一環として"すまい・まちづくりフェア"を実行委員 会を組織してすすめている。 実行委員会は神戸市役所内に事務局を設け、住宅局住環境整備部地域支援課が担当して おり、長田区その他で、土地所有者を集めて勉強会を行い、すまいづくり・まちづくりを 考え合ってきた。 その中で、定期借地権付きで分譲の家づくりをすることの合意が生まれたのが、長田区 腕塚町の一画であった。 「すまい・まちづくりフェア」では、フェアの一環として、民間所有地で、市として推 奨できる良い家で、街並みも考えた家づくりをしようと"神戸・いきいき下町推進協議会" (兵庫県建築士会内)と共催で、「まちなかモデルハウス」第一号建設コンペを行った。 コンペに当たっては、街並みに配慮して、数戸のまとまったもので、品確法による性能 評価と瑕疵保証制の担保が条件で、展示と販売のためのモデルとして、施工者の責任でま ず一棟を建て、購入者を募集して順次建設することとされていた。 そのため、設計コンペではなく、設計・施工がペアであることが求められ、今年、1月 末で57組が登録し、9組が設計を提出した。 その審査の結果、「やわらかな住まい」をコンセプトとした遊空間工房と三洋建設のペ アが最優秀賞に選ばれ、第1号建設となったものである。 

●トコトン見てやろう木の家づくり
 完成をめざして建設がすすみ、左官が入る直前の「やわらかな住まい」を訪ねたのは、 梅雨明け後の午後だった。 施工に当たっている三洋建設の上野山さんと神戸市の担当主査の狩野さんが待っていて くれ、取材に応じてもらった。 この「まちなか住宅」づくりでの神戸市のスタンスが面白い。 土地所有者の勉強会、定期借地権付きの分譲住宅づくりの合意、建設方法の検討からコ ンペの実施、入選者との話し合いから購入までの道づくり、そして建設中の諸々の打合せ や雑務。これだけの仕事をしながら、「市役所での決裁書が一枚もないんです」と狩野さ んが笑うように、主導的でありながら行政的ではないし、財政支出もない。「お見合いさ せただけ」と仲人のように言っている。そこに見えるのは、神戸への愛と復興への情熱の ようである。 モデルハウスの建築に当たって際立った運動がある。 「家づくりの最初から最後まで市民に見てもらおう」ということで、「建築をトコトン 見てやろう会」(略称・トコトン会)が作られ、135人の市民が入会しているという。 上野山さんの発案のようだが、狩野さんともう一人、設計を担当した野崎さんが、この 会をリードしている。 神戸市が関与しているという安心感や信頼のようなものが市民の中にあるように感じら れる。しかし、それ以上に大震災を体験した神戸では、家づくりへの関心が他の都市とは 比べものにならないくらいに高く、真剣に勉強しようとする姿がある。お仕着せのプレハ ブ住宅の問題を目の当たりにしていることもあるし、地震対策への安全・安心という視点 もある。それに、「まちなか」に木の家を求める気運の高まりもある。 そんな市民の想いが、家づくりを最初から見ようという行動を呼んで、想像以上の会員 数となったように感じさせられる。 このモデルハウスは分譲だが、市民参加の家づくりであり、買い手になるかもしれない 人だけでなく、会員みんなが家づくりの主役と言えるようで、それがまた市関係者の喜び と関心を呼んでいる。住宅局長をはじめほとんどの幹部が、公私を問わず見学に来ている というし、近く市長も見たいとのことである。
  この市民参加型の家づくりをより強固なものにしているのが「建築をトコトン見てやろ う会」と題するニュースで、全会員に配られている。 月2回くらいのペースで発行される手づくりのニュースで、地鎮祭の様子と地盤・基礎 工事を紹介した第1号が4月に出されている。ニュースにはこの後の見学会等の案内や工事 予定が必ず載せられているから、会員がより積極的に活動に参加するようになっているよ うだ。
 この写真入りニュースを見るだけで、工事のすすみ具合いと躯躰の様子、会の活動がよ くわかる。 上野山さんが持って来てくれたニュースはこの時で7号まで出されていた。 工事の紹介以外に、会の活動が報告されている。 工事見学会だけでも、基礎工事、棟上げ祭など随時、現場の見学会を行い、次は7月22 日の左官工事の見学会で、練習用の壁も用意することになっている。 会の動きを見ると、建築現場だけでなく、山からはじまる木材の工程の見学、塗り壁の 勉強、和紙の製造現場、部材等の展示会への見学といった、家づくりに関わるほとんどに ついて、その実際をみて、学んでいる。まさしく「トコトン会」である。 使っている木は、床材以外は県産材でということで宍粟杉だが、その山の見学会を行い 杉材の伐採の様子を見て、山での乾燥から製品になるまでの経緯、日本の林学の現状まで を勉強している。 今度は製材工場へ行き、丸太からの製材加工を説明を受けながら見学し、「やわらかな 住まい」で実際に使用されているものと同じ大黒柱を製材してもらっている。8mの30cm径 の丸太を、六寸角に製材するのを見て、参加者はその姿に圧倒されて感嘆したという。 大工による墨付けやきざみ作業の見学会で、木材がどのようにして家に使われて行くの かも学び、曲り梁の威様さに見とれた人も多かったとのことであった。
 
施主が参加する家づくりの推進が求められているなかで、135名の市民と市の関係者が 学び、体験してすすめられる家づくりの活動は称賛に値するもので、完成からその先まで も注目したいものである。
●まちなかだからこそ「やわらかな家」
 これだけ多くの人が勉強しながら注視するなかでの家づくりは、真剣勝負さながらであ る。 大工さんをはじめとする職人さんの動きは真剣で、材料にもおろそかな扱いは見えない し、心をこめての作業が目に映る。突然の訪問にも邪魔者扱いをせず、話し合いの場もつ くってくれた。 上野山さんをはじめとする施工者にとっては緊張の連続かもしれないが、それだけに力 のこもった家が日一日と完成に近づいていることを感じさせられる。

  「やわらかな住まい」というなかには、造り手のこころが集約されている。 住む人にやさしくということで、木をはじめとする自然の素材を使っている。断熱や蓄 熱、調湿には心を配り、野地板以外の板類は30mm厚の杉板だし、断熱用に外壁と内壁の間 に入れたのも古紙から作ったセルロースファイバーである。 まちにもやさしくといこともその中に含まれている。見た目でも、まちなみづくりに添 うように、外壁はサイディングではなく左官仕上げの掻き落としで、土間を設けて内と外 とのつながりを呼び、外構には植栽をして良い環境づくりを考えている。 やわらかな住まいは、地球にとってもやわらかであることが条件となる。家が粗大廃棄 物とならないために、使われているのはすべて土に還れる自然素材である。 三洋建設は、本誌第14号で「自然素材の家」づくりとして紹介しているが、基本スタン スに変わりはない。
 
杉材を構造材、床・造作に用い、壁の多くは漆喰に珪藻土を混ぜている。断熱用のセル ロースファイバーは、吸排湿機能を持って内壁と外壁の間の湿気を取ってくれる。 基礎はコンクリートのベタ基礎だが、土台下には通気を保ち、土台を腐蝕から守るダイ カラット同等のねこ土台を使用。屋根は淡路産のいぶし瓦葺きである。外部建具で延焼の おそれのある部分にはアルミサッシ乙種防火戸の網入りガラスを使っている。 敷地面積は77.6㎡、三階建ての延べ床面積が112.6㎡、一階と二階が44.7㎡、三階が23.2 ㎡とそれほど広くはないまちなかの家である。 玄関を入ると一階はリビングからダイニングへと広がり、設けられた土間が、外とのつ ながりをつくっている。 二階は階段の前にファミリールームがあり、その先には室内バルコニーが設けられて憩 いの場となっている。ファミリールームからは左右の寝室につながっている。三階も小さ めの二部屋があり、それぞれ、寝室となっているが、どのようにでも使えるようにしてあ る。 まちなかという立地条件の中で、居住スペースをつくるための三階建てだから、広びろ とはいかないながら、一階のリビング、二階のファミリールームを通じて各部屋につなが るつくりは、家族の絆を大切にしようとする設計・施工者の想いを感じさせてくれる。  完成記念に何かしたらということになり、8月11日に、完成見学会を兼ねてトコトン会 員のセミナーを予定しているという。市民参加による良質な木の家づくりが、神戸の長田 から発信されている。その広がりに期待したい。
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